音は聴けなくとも心で聴く演奏があるらしい
土曜の朝なのになんでこんなに憂鬱なんだろう?ソニー・クリスの最晩年のアルバム、自殺した後に出された「サタディー・モーニング」はもっともブルーなアルバム。「エンジェル・アイズ」なんて愛らしい曲から始まっているのにこの暗澹たる気持ちはなんだ。バリー・ハリスのイントロも暗いけど、それ以上にソニー・クリスのアルトサックスは暗い。パーカー直系の息子と言われたときもあったのに。李良枝『ナビ・タリョン(嘆きの蝶)』で亡くなる兄とヘレン・メリルを歌った後の虚無感(そうは書いてなかった)に陥ったのはソニー・クリスのこアルバムを聴いたからだと想像する。
二曲目。「ティンティン・デュオ」。これも本来なら楽しいダンスを踊るようなラテン・ミュージックなのだ。こんな曲で踊れというほうが無理だ。踊れないアルト・サックスは懸命に演奏するけど。ベースのルロイ・ベネガーウォーキング・ベースはもっと踊れと刻んでいる。でも踊れないものしょうもない。
「ジーニーの膝」はブルースだ。よくわからないタイトルだけど女の子の膝ばかり見てしまう男の子なんではなかろうか?ちょっとブルーだけどこの曲はまだ微笑ましい。ソニー・クリスは本当にブルースは上手い。生まれながれのブルース・ミュージシャンだと思うことがある。
タイトル曲のこの暗さ。「土曜の朝」。でも嫌いじゃないよ。このぐらいから始めてもいい。オレンジジュース(鬱にはオレンジがいいそうな)がないから朝はコーヒーだけど、ブラックだ。土曜の朝だってうつ伏して泣きたいこともある。ソニー・クリスはよくわかっている。
「私の心は静止している」。この選曲。歌詞は女の子を見て「心臓が止まる思い」の意味だが、実際は車に轢かれそうになってこの曲を作ったらしい。ここでは、ソニー・クリスは演奏していない。バリー・ハリスのトリオだけの演奏。すでにソニー・クリスの心臓は止まっていたのか。それでもそこにソニー・クリスがいるように聴こえるのかな。
次の曲「Until the Real Thing Comes Along(本当の事が来るまで)」でソニー・クリス復活。そういう選曲したのですから。ここではいつものソニー・クリス節だけれどもやはり晩年の音ですね。タイトルも意味深です。そして、最後の曲「Confusion(混乱)」もソニー・クリスは消えてしまいます。バリー・ハリスのソニー・クリスを思う気持ちですね。ジャニス・ジョプリン『パール』と同じパターンですね。
(ジャズ再入門vol.30)