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ダブルチーズバーガーを売るには、どうすればよい?


マクドナルドには古より伝わる裏技があります。

それは、ダブルチーズバーガーを1つ買うよりも、チーズバーガーを2つ購入した方が安くすむというものです。

現状確認してみますと、ダブルチーズバーガー430円〜、チーズバーガー200円〜

チーズバーガーを2つ買って、中身を重ねてしまえば、400円で実質ダブルチーズバーガーと同じものを食べられるというものです。

なぜこのようなことが起こるのか

私は学生の頃、マクドナルドでバイトしていました。その頃から、このライフハックは語られていました。

しかし実際に、店頭でチーズバーガーを二つ買って、重ねている人を見たことはありません。またマクドナルド側もこの値段設定を変える気はないようです。一体なぜでしょうか。

それは”面倒くさい”からです。席につくなり、バンズをすべて剥がして、パティとチーズを一つに合体させることは、手も汚れますし、面倒くさい。周囲からも笑われてしまいそうです。

みっともない、浅ましいと思われるようなことをしてまで、430円のものを400円で食べたいとは思わない。そんな人が大半なのではないでしょうか。

またわざわざ二つ食べるのが面倒くさいという方もいそうです。そもそもダブルチーズバーガーという商品が好きなんだという人もいるでしょう。だからこそダブルチーズバーガーは売れています。

私たちが思っている以上に"面倒くささ"や"手間がかかること"を解消することには、市場価値があると分かります。

セルフが安い理由

ただ、これを逆手にとったビジネスもたくさんあります。

たとえばスウェーデン発の家具・生活雑貨ブランド『IKEA』。彼らは家具を組み立てる手間をあえて、消費者側に”任せる”ことで、その分商品を安価に提供しています。

家具は非常に高価な買い物です。低価格にすることで、多くの人が気軽に家具を購入することができます。また自分で組み立てれば、その家具に愛着を持つようにもなります。

よくお昼のワイドショーで節約術として語られるのも、このロジックですね。部材を自分たちの手でDIYすることで、既製品よりも安価に入手することができる。しかし本来、組み立てに必要な作業費をすっ飛ばしていたりします。

近年、セルフのフィットネスジムや餃子などの無人販売も増加してきました。自分で会計をおこなうセルフレジも、もはや当たり前です。

必要な手間を消費者側に預けることで、人件費をカットし、低価格に商品を提供することができるのです。

ダブルチーズバーガーを売るには

事業者の永遠のテーマは「いかに商品に付加価値をつけて、高額に販売できるか」です。つまり、いかに高くダブルチーズバーガーを売るかです。

たまに「広告代理店って何のためにあるの?」と問われることがあります。そして広告代理店の仕事は、ただの中抜きだと言われたりもします。

それでは、なぜ彼らは存在しているのでしょうか。役割がないのに収益を上げ続けられるほど、資本社会は甘くはありません。

本来の代理業とは、クライアントの”手間を省く”ことを仕事にします。

広告代理店であれば、広告を制作するための様々な業務を一括で請け負います。広告制作には、企画・撮影・編集・照明・衣装・キャスティング・デザイン・ライティング・出稿業務・進行管理など多様な業務があります。

制作の各部門にも、それぞれプロフェッショナルがいますから、各所と打ち合わせ・日程調整をして、スケジュールを管理が必要です。もちろんクオリティにも妥協できません。納得のいかない出来であれば、何度も差し戻しが発生します。

それらの業務を全てクライアント自身が担うことは不可能です。そのような無限に発生する業務を一括して担うのが広告代理店です。

彼らへ案件を投げておけば、チームを組織してクオリティの高い成果物を提案し返してくれます。そして、そこに存在意義があります。

そういう意味では、彼らはダブルチーズバーガーを販売している仕事といえます。

当たり前の価値

よく顧客を喜ばせるには、「顧客が感動するレベルでなくては」と思っている人がいます。しかし、実際にはそんなことはありません。

クライアントは「お茶が欲しい」と伝えた時に、きちんとお茶を出してくれればいいのです。

「クオリティに拘りたいので、提出日に間に合わないかも」と言ったクリエイターさんがいました。私はすぐに「クオリティより納期を優先してください」と伝えました。

クオリティは後から何とでも修正が効きます。しかし納期をずらすと、予定がすべてスライドしていきます。そしてクライアント様の信頼も失ってしまいます。

納期通りに納品する。ミスをしない。時間を守る。約束を守る。規約違反をしない。そんな当たり前のことを当たり前にすることが、実は一番難しいことです。当たり前のことを問題なくできるということは、一番大切と言っても過言ではありません。

個人的に好きなドラマ『お金がない』で印象的なシーンがありました。

ジュディオングさんが演じる、仕事に厳しい女社長が、空回りする主人公(織田裕二さん)に対して「お茶汲みもまともにできない人は、仕事もできません。」と言い放つシーンです。

このドラマを観ていた少年時代の私には、その言葉の意味がわかりませんでした。しかし年を重ねた今、このセリフがとても響きます。

早く成果を出すために意気込むのではなく、まず仕事の基礎である雑事を完璧にこなせるようになれ。

お茶を美味しく淹れる努力、お茶を綺麗に出す努力は誰にでもできること。ただお客様をもてなす意味も理解せず、ただ雑然とお茶出しをした主人公を叱責するのです。

「いかにお客様を喜ばせるか」という仕事の本質を分かっていれば、そんなことは起こっていなかったのでしょうが。

当たり前の価値を見失ってはいけない。小さなことを疎かにする人に大きな仕事はできない。これば今でも忘れてはいけない教えだと思います。

当たり前の基準を高める

とはいえ、当たり前のことをただやっているだけでは、他社と差別化できないではないか。そんな声も聞こえてきそうです。

しかし、それは間違っています。世の中優れたサービスや企業がなぜ選ばれるのか。それは、当たり前の基準が非常に高いのです。

例えば上記の広告制作の話でいえば、納期にギリギリ間に合わせるクリエイターよりも、1~2日早く提出してくれるクリエイターさんの方が優秀だと感じます。もし内容に問題があれば、その1〜2日で修正できるからです。

また予定よりも早く成果物を提出し、さらにクオリティも完璧なのであれば、それは非常に優秀なクリエイターさんです。気を衒わず、余計なこともせず、ただ求められたことを、水準以上のクオリティで打ち返している。

当たり前の基準が高い。こういった方は多くの代理店や制作会社から重宝されますし、依頼もひっきりなしです。

そういえば、ドラマ『お金がない』でも、お茶汲みをダメ出しされた主人公(織田裕二)は、夜を徹してお茶沸かしやお茶淹れの技術を特訓します。そして女社長の信頼を得ます。当たり前の基準を上げて、彼は信用を勝ち取ったわけですね。

お客様が求めていることを理解し、そこで当たり前の基準を高めること。それこそがダブルチーズバーガーを売る最大の秘訣なのではないでしょうか。

ちなみに2023年マクドナルドでもっとも売れたハンバーガー商品こそ、言わずもがな「ダブルチーズバーガー」だそうです。チーズバーガーではないのが、非常に興味深いですね。手間や面倒を嫌がる人、想像よりも多いのかもしれません。