終末異世界と転移少年の行く末。
『要塞都市アルカのキセキ 結晶世界のキズナ』が発売された。
本シリーズは前後編仕様で、今回は後編である。
前編で一度はアルカを救い、元の世界に戻った遊馬。
だが、本書では再び異世界に誘われてしまう。
アルカを襲う危機、そして、アルカがある『異世界』の正体とは。
この世界と遊馬の冒険の結末を、是非とも見届けて貰いたい。
六七質先生による希望を予見させるカバーイラストが目印だ。
この荒廃した世界を美しく描いてくださったことを、心から感謝したい次第である。
滅んだ世界で生き延びた人々が、お互いの主義主張のために戦ったり協力したりする本作は、今までの蒼月作品とは一線を画す作品となっている。
多様性が求められる世の中で、明確な善悪はほとんどないと分かった時代、私達はお互いにどう認め合い、時に妥協し合えばいいのだろうと思いながら執筆していた。
まだまだ粗削りなところもあり、書きたいことは書けたが反省点も少なくなく、実験的な意味合いが大きな作品になったと思う。
因みに、本作には個人的に書き進めていたプロトタイプがあり、世界観はほぼ一緒なものの、物語の視点と展開が異なっていた。
プロトタイプ版はあまりにも読者さまの共感を呼び辛く、商業作品にするにあたって再構築したのだが、いつかプロトタイプ版のような物語も皆さまにお届け出来るよう、精進したいと思っている。
ミコトもその頃からいたキャラクターで、既存の著作のキャラクターと音がかぶるために名前を変更しようと思ったのだが、愛着があったためそのままにしてしまった。
因みに、プロトタイプ版は転移ものではなく、純粋な異世界ものであった。
それゆえに、遊馬は商業作品にするにあたって生まれたキャラクターであり、女性を装う設定は、立ち上げ当時の担当さんに盛り込んで欲しいと言われたアイディアだった。
やりたいことはまだまだあったのだが、変化球ファンタジーを商業的に持続させるのはなかなか難しい。
むしろ、よく企画を通してくれたものだと思う。
本書で貴重な経験を積ませて頂いたので、次こそは純粋な異世界ものを書きたいものだ。
最後に、本書のサブタイトルは私の愛読書J.G.バラード著『結晶世界』から取っている。
恐らく、人体が結晶化するというアイディアの原点となる話なので、興味がある方は是非ご一読いただければと思う。