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キャットタワーのある家 #13 出産(2)
出産から少し時間が経ち、あんずも体力を取り戻したようで、そろそろと歩き出した。早速仔猫ちゃんのところへ行くのかと思いきや、簡易ベッドの中でスヤスヤ眠っている姿を遠巻きに眺めるだけで、近づいて行かない。
(アレ、何?)
「え?あんず、どうして行かないの?」
あんずのお尻を押して仔猫ちゃんの方へ向かわせようとするが、あんずの足は踏ん張って動かない。
「どういうこと?」
こういうときに動物と話せないのは本当に困る。頼みの綱は獣医師さんに相談だけれど、早朝の出来事なのでまだ動物病院が開院していない。為す術なく、あんずと仔猫ちゃんをガン見で見守る私。結局開院時間になっても事態は何も変わらなかったので、早速動物病院に電話をした。
「先生、今朝、赤ちゃん猫が産まれたんですけど」
「あ、おめでとうございます」
「・・・・・・」
私がテンパっているせいなのか、想定外の祝辞の返答にちょっとヘンな間が開いてしまった。そうか、そう言えば、「おめでたいこと」だった。
「でも先生、あんずが仔猫のお世話をしようとしないんです」
「あーぁ、そうですか。もう少し様子をみてください。でも、最悪、育児放棄の可能性があります」
育児放棄?猫の世界にもネグレクトがあるのか?勉強不足だった。
「えー!そんなことがあるんですか?どうしたらいいんですか?」
「どうしても母猫が赤ちゃんに近づかないようだったら、赤ちゃんを一度病院に連れてきてください」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
そんなやりとりを終えて、さてこれは困ったことになったと思っていた矢先、あんずに変化が現れた。そろりそろりと、眠っている仔猫ちゃんに近づこうとしている。
(アタシが産んだ?アタシの子?)
何キッカケ?理解が遅かっただけ?母性が遅れてやってきた?なんだか分からないけど、なぜか急に仔猫ちゃんを守るべきモノと思ったあんずは、段ボール箱の簡易ベッドに入っていって仔猫ちゃんに寄り添うように横たわった。が、目測を誤っているのか、「守る」という意識が強すぎたのか、あるいは所作自体を理解していないのか、寄り添うと言うより、完全に仔猫ちゃんに覆い被さるような形になってしまった。
「あんず!仔猫ちゃんが潰れる!仔猫ちゃんが息できない!」
私は慌てて、あんずの下敷きになった仔猫ちゃんを救出して、あんずの横に並ぶように寝かせた。
(添い寝のつもりだけど、なにか?)
一見、ゆずよりあんずの方がキリッとした顔つきなので、あんずの方が利発そうな印象なのに、実はあんずの方がかなり天然だということを、さすがに飼い主の私は見抜いている。
「育児放棄」の心配は無くなったようだけど、「無事育児が出来るのか」という心配はこれから続くようだ。