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パンドラの箱

パンドラの箱をあけてしまいました。
パンだけに。

『スコーンがなければパンを食べればいいじゃない』とマリーアントワネットも言ってた気がします。言ってない。


スコーンを作るために購入した、薄力粉と強力粉が大量にある。
『カメリヤスペシャル強力粉』の袋には、おいしそうな食パンのビジュアルがどーんとデザインされている。

ゆえに、パンを作る事にしましたー。
パンパカパーン♪陽気かな。

自分の人生でパンを手作りする事はないだろうと思っていました。

難しそう、失敗しそう、手間がかかりそう、時間がかかりそう。何よりこの世にはおいしいパン屋さんがたくさんあるし、買えばいいじゃない。そういった理由からです。

でも、気がついたらドライイースト片手に、スーパーのレジに並んでいました。

私はネットで色々とレシピを検索し『基本の丸パン』という初心者でもトライしやすそうなものを選びました。

強力粉、砂糖、ドライイースト、水、バター、塩を、レシピ通りに混ぜて、捏ねて、丸く成形して、発酵させる。

発酵は一次発酵と二次発酵があり、それぞれ30〜40分の時間を要します。

私は初めて、このパン作りという工程において、ある揺るぎない真理に到達しました。




パンは生き物でした。

間違いなく、生きていました。

ちょっと待ってこれはすごい真理だと、私なりに経験を通して発見した真理なのだと思い、もしかしてこの事に誰も気づいていないのではと[パン 生き物]で検索してみたところ、約7千万件ヒットしました。

みーんな、気づいてた。

パンを生き物たらしめているもの、それはドライイーストです。イースト菌が糖を分解し、その際にアルコールと炭酸ガスが発生するために生地がふっくらとふくれあがる事を知りました。またあの独特のパンの風味はこの発酵によるものだとわかりました。

みーんな、知ってると思うけど。

パン生地は何とも柔らかく弾力があり、もちもち、ぷにぷに、といった表現がよく似合う、まるで赤ちゃんの肌のような触り心地です。
その生地に触れながら、大事に大事に育てたくなる感情は、作ってみて初めて味わうものでした。

そして、パン作りは気温や湿度など様々な環境に左右されるとても繊細なものだと耳にした記憶がありますが、それの意味するところがほんの少しだけ、理解できた気がします。

私は、二次発酵しオーブンで焼く間に、パンと一緒に食べるポタージュを作る事にしました。

いつか作りたいと思っていた、『素晴らしく美味しい野菜のポタージュ』。以前もnoteでご紹介した、料理家の今井真実さんのレシピです。


このタイミングで作らずしていつ作るのか。

いそいそと、しばらく使っていなかったハンドブレンダーを取り出して調理に取りかかりました。


「間もなく新年明けるよー!」ぐらいの高揚した気持ちで、焼き上がり10秒前からカウントダウンし、オーブンレンジを開けて、めでたく人生初の手作りパンをお迎えしました。

ほぉぉぉぉ。何ていい色と香り。
自分の手で作り出した人生初のパンは、焼く前とは異なるイーストの芳醇な香りを放ち、ちょうどいい小麦色に焼けて、何とも愛らしい姿形をしています。

そしていざ、至福のランチタイムです。

ポタージュとパンをそれぞれ器に盛り付けて、お気に入りのランチョンマットの上にセットし、美しく見える角度から記念に写真を1枚撮影しました。Instagramは使っていませんが、何と言っても人生初、ですから。

いただきます。

私はそれを一口、口に含み、ゆっくりと味わいました。


ズキューン。

えっまじでこんなにおいしいものって、この世にある?もしかして私あの世にいる?

雷にうたれるとか電撃が走るとか三途の川渡るとかそういう語彙力の無さを露呈してしまうぐらい、猛烈においしい。


ポタージュが。

パじゃなくポが。

それはもう『人生で初めての手作りパン』というその行為も、感動も、想い出も、バイアスも、何もかも凌駕するおいしさでした。

どこにでも売っている4種類の野菜と、牛乳、バター、それだけでこの複雑な旨味が出るとは一体何のしわざか。
口に含むたび身体に染み渡り、全身の細胞が喜んでいる気すらしてきます。
2リットルぐらい一気に飲みたい。

パン?

おいしかった、おいしかったですが、ポタージュの引き立て役でしかありませんでした。

センターは間違いなく、ポタージュでした。

いつかセンターに躍り出るパンを作り、誰かとパンドを結成してみたいという謎のダジャレで、本日は締めたいと思います。



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