すてきな曲と、ご自愛ガトーショコラ
セイント・星矢・バレンタインデー。
子どもの頃から、絶対言ってはいけない一言を発して周りを困惑させる性格だった事を再認識しました。いつも口が滑っちゃう。
誕生日、結婚式、ハロウィン、クリスマス、ひな祭り。
そして先日の、セイント・バレンタインデー。
お菓子作りを始めてから、多くのイベントが甘いものと密接に関わっている事に今更ながら気がつきました。
深い歴史は知りませんが、誰かを祝う気持ちや愛する気持ち、幸せな気持ちを表現するツールとして、甘いものが最適だというのは感覚的に納得感があります。
それらイベントの中で、時代と共にそのありようを徐々に変えつつあるのが、バレンタインデーではないでしょうか。
キリスト教の歴史的背景を持つ祭事として生まれ、日本では独自の発展を遂げながら女性が男性にチョコレートを贈る日とされてきました。
近年は専らそのような色合いを残しつつも、友達や家族やお世話になった人などはもちろん、自分自身に贈って楽しむという風潮も加わり、恋でも愛でも謝意でも自愛でも、何でも表現できるイベントへと変化し続けています。
ところで私は最近、2つのとてもすてきな曲と出会いました。
ひとつ目は、クラムボンの『Lush Life!』という曲です。
冒頭から弾ける恋心を隠す事なくストレートに歌ったこの曲は、クラムボンらしいメロディラインに乗せられた言葉が、とんだり跳ねたりしながら心の中にぽんぽんと放り込まれてきます。
MVの表現がとてもユニークで、女の子の後ろ姿だけでこれほど想像力豊かにその誰かの可愛らしい気持ちを表現できるのかと驚きました。
バレンタインデーについてふと考えたとき、真っ先にこの曲が頭に浮かびました。『Lush Life!』という曲名が意味する通り“豊かな生活“とは、誰かの事を想い悩んだあの青い時代の事だったのかもしれないなぁ、と思わずにいられません。
そしてふたつ目は、Bailystocksの『光のあと』という曲です。
Bailystocks、何て読むんですか、ビアリストックスと読むらしいです。
近年出会った曲の中で、だんとつ、素晴らしい。
衝撃的に、素晴らしい。
こんなアーティストがいるなんて、素晴らしい。
どこが、素晴らしいのか。
小田和正さんの名曲、口ずさんじゃった。
心が震えるような感動は、上手く言葉にできないですよね、小田さん。
とてもやわらかい歌詞が美しい風景を描き出し、光と音と風と何なら匂いまで感じられそうな、五感をくすぐる曲、という感じです。
こちらも恋心を歌った曲かと思いきや、そのMVは見る人を混乱させる奇妙さを持ち合わせています。一見するとちょっと不気味で不可解な映像に、一体どんな想いが込められているのかと想像してはみるものの、誰かに対するとても強い感情に乗せられた絶望と希望が混ざり合い、心に澱がたまります。
ただ、誰しも光のあとに、誰かのことを思い出す事がある。間違いなくある。
そう感じさせる曲です。
似て非なる2曲を繰り返し聴きながら、賞味期限切れ間近の製菓用ブラックココアを使って、ガトーショコラを作りました。
チョコレート、ブラックココア、バター、卵、砂糖、ハチミツ、ラム酒で作る、ご自愛ガトーです。
チョコレートとバターを湯煎で溶かし、その他の材料も手順に従ってあわ立てたり混ぜ合わせたりしながら、生地を仕上げていきます。
最後に少し加えたラム酒が、ガトーショコラの品格をグンと押し上げてくれました。
170℃のオーブンで25分。
やはり宇宙にブラックホールは存在しました。
『光のあと』を聴きながら、全ての光を飲み込んでしまいそうなお菓子を焼く。
いえ、もはや“焼き尽くす”と言ってもいいでしょう。
こんなに黒いお菓子はブラックサンダー以外に見たことがありません。
焦げてんのかこれ。
しかし私は諦めません。
闇に打ち勝つ、光の戦士を知っているからです。
その名もストロベリー&クリームウォーリア。
うすうす、気づいていたのですが、今日まで認められなかった事。
それは、私はお菓子作りが大好きですが、下手だという事です。
さらに言うと、デコレーションセンスが皆無だと言う事です。
生クリームをかけた時点で雲行きが怪しくなり、いちごを乗せてみたもののリカバリーができませんでした。
こうなったら、独自性を追求しようと考えました。
余計な事しちゃった。
つい先日、同じくブラックココア消費のために焼いた、牛のクッキー最後の1個。
牛のもう一歩も歩けない感と、いちごと優しく寄りそう姿は、涙なしに見る事ができません。
いろんな意味で、悲しみにくれました。
気を取りなおし、お気に入りのコーヒーを淹れて、ティータイムです。
見た目とは相反して、しっとりずっしりした生地は、チョコレートとラム酒の豊かな香りが味わい深く、間違いなくここ最近作ったお菓子の中で一番の美味しさでした。
いちごの酸味、生クリームのまろやかさが、ガトーショコラの味わいと最高のハーモニーを奏でています。
豊かなひと時でした。
すてきな曲よ、ガトーショコラよ、ありガトー。
いつも口が滑っちゃう。
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