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帰り道の声

道路に面した僕の住んでいる部屋は、外の声がよく聞こえる。
献立を話す主婦、宅配の車、大きな声で笑い合う酔っ払いや若者たち。別段煩わしく思ったことは無い、天然のラジオみたいなものだからだ。基本的に通りすぎる一瞬しか聞こえないものだから気にするものでもない。

時折面白い会話も聞こえてくる。主に近所の小学生たちである。小学校の通学路になっているようで、子どもたちの声がよく聞こえる。無邪気な彼らの会話は深い意味なんてなく、その時その時を全力で楽しんでいることだけが伝わってくる。

ある日聞こえてきた会話だ。前日に雨が降っていた為、傘を持って行ったのだろう。軽い音をぶつけ合う音、そして威勢のいい声が聞こえてきた。
「俺の必殺技は凄いぞ!この力と能力を合わせて」
凝ってるな、自分もそんな帰り道を過ごしていたなと懐かしくなる。
「そして攻撃力がなんとですねぇ〜?!」
麦茶を吹き出した。声変わりをしてない彼らの高い声で放たれた台詞は、幼い頃に見たテレビショッピングの元社長を彷彿とさせる。なぜ戦いの最中にあんな口調になってしまうのだろうか。

男の子のバイブル、ドラゴンボールの人気キャラ、フリーザのような丁寧な口調の敵キャラは王道漫画にお馴染みだ。そういったものの真似なのかとも思ったが、もう今の時代は違うのかもしれない。

なりたい職業ランキングでYoutuberが上位に位置している現代、小学校低学年の世代はYouTubeに夢中になっていることが当たり前だ。商品紹介系の動画の丁寧な説明口調に影響されたりしているようなしていないような。あくまで予想に過ぎないが、なんにせよ子どもの言動の起源は予測不能で面白い。

夕方、家に帰る時間も元気な声が響く。エネルギーは尽きる事がないようだ。全く羨ましい。楽しそうに走る音が聞こえるこの町に元気をもらいながら今日も仕事ができる。また子どもたちの声が聞こえる。
「くそったれええええ!!!!」
ドラゴンボールに影響を受けてそうなやつもいて、僕は少し安心した。

無題221-20220904212549


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