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シアターへようこそ

一人暮らしを始めて数ヶ月が経っていた頃、僕はテレビを買っていなかった。特別観たい番組もないし、YouTubeが観れるならそれでよかったので検討さえしなかった。我ながら令和を生きていることを自覚する出来事である。
そんな折、友人の家で映画を観ることになった。彼の家には小さなプロジェクターがあり、その日壁一面に映し出されたMARVELの映画、「VENOM」はとんでもない迫力で、僕はその日にプロジェクターを買うことを決意したのだ。

ついにテレビのない我が家に届いたそれが僕の部屋の壁を明るく照らす。初めて観たのは「仮面ライダーアマゾンズ」だったか。「おっほ。」とか変な声が出てニヤニヤしてた気がする。我が家の「観賞」という行為は、ここで一つ進化を迎えたのだ。
なんと言っても僕が好きな瞬間、映画館でライトが消える瞬間を家で味わえるのだ。これがたまらない。僕は嬉しくなって友人たちを招き自宅で頻繁に映画を観るようになった。プロジェクターの電源を入れて部屋の電気を消す。「おお!きたきた!」友達のニヤケた顔もたまらない。一人では観ないようなホラー映画や、気になってたけど上映が終わった作品、懐かしいアニメなどとにかく沢山観た。そして朝まで語りつくすのだ。なんて幸せな時間なのだろう。
プロジェクターの電源を落とす時、だいたい空はもう明るくなっている。明るくなった劇場に少し寂しさを感じるところまで再現されるのだ、大変な買い物をしてしまったものだ。

「あー、面白かったぁ。」
テレビはないが、より大きな画面で映画を見てこれを部屋で言い合える、なんと幸せなことか。持ち込みでうちに来る友人もいるくらいだ。ふふふ、いいだろう?

今日も友人が来る。うちに来るのは初めてのお客様だ。プロジェクターに大変興味を持っていた彼に自宅での最高の体験を教えてやるのさ。部屋に入った友人が中を見渡してこう言った。

「あ!これがプロジェク……え、家にガチャガチャがある…?」

違うぞ友人、今日はそっちじゃない。



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