かつての猿は餅を焼く
朝起きた瞬間落ち込んでいることに気付いて脳みそが「???」で満たされる。目覚ましよりも五分ほど早く目が覚めた自分を誇らしく思ってもいいのに心が浮いてこない。ずぅんと青く重くなっていて、底のほうで転がっている。
体調は別に悪くない。仕方が無いから起き上がると体はいつも通りに動いてくれて日めくりカレンダーを1枚破り、窓を開け、お湯を沸かした。トイレに行き、手を洗い、キッチンに立つ。
米を炊いていなかったので今日の朝ご飯は餅だ。カルディで安売りしていた。これがとても美味しくて、納豆をかけたり醤油につけたり、散々いろんな楽しみ方をしている。最近有名な餅フレンチトーストというものも作ってみたかったのだけれども、コンロの電池が切れてしまって火が使えない状態だった。普段もレンジでばっかり調理しているつもりだったが、実際レンジしか使えない状態となるとけっこう困った。思ったより火を使って生きていた。さすが人間を進化させたモノ、火を振り回す猿が脳内で踊る。
やっと単二の電池を購入したのでコンロが使えるようになったことだし、今日は餅フレンチトーストを作ってみることにした。チンした餅と卵を混ぜ合わせバターで焼くだけ。落ち込んでいてもできた。
しょっぱいもの要員として蕪のぬか漬けも切った。はちみつをたんまり掛けたくて寒さに固まったボトルを湯煎する。じゃりじゃりのはちみつ、とても好き。
出来上がった餅フレンチトーストは枕みたいにぱつぱつに大きかった。餅が膨れたのだ。齧るとカリカリでじゅわっとしていて甘い。最近流行る理由がわかる。
無言でつくり、無言で食べていると落ち込んでいた理由が少しづつ思い出される。昨日の自分の嫌なところが一晩経って濾過され心臓に染み出していた。黒く苦い汁が結露してへばりつく。
かりじゅわふわっな餅フレンチがその黒い汁を拭い去ることはなかった。でもおなかがいっぱいになったら、その苦い汁を舐める勇気は出てきた。 こういうとこが昨日よくなかったよなぁと、手帳に書き出す。
放っておくとどんどん自分が嫌な人間になっていきそうで怖い。自分で自分を視ておくしかないから、いつの間にか背中側が真っ黒に染まっていても気づけやしない。こわいな、気をつけようを繰り返して、でもやっぱりお腹側しかみえないことには変わらない。
せめてご機嫌でいよう。ちゃんと手帳にかいたことは心に留めて、あとの不機嫌はハチミツで流し込もう。結晶化したハチミツでも不機嫌なら洗い流せる。
尻のあたりが黒くなってたら誰か教えてください。蒙古斑じゃないやつね。