見出し画像

ぐひんの山 第五章 封印

 弥生がいなくなった翌日に母親を饗庭村に残したまま、陽菜は大学へ向かった。運転しながら、弥生の安否で頭の中がいっぱいになっている。自分を捜索隊に交じって弥生を探したかったが、村に残った母親と父親に任せるしかないのも事実だ。

 今、自分に出来ることをするしかない。甕の謎を調べたからと言って弥生の行方が分かるとは思わないが、何かしていないと弥生のことばかり考えてしまう。

 一番日差しの厳しい昼間にようやく大学に着いた。饗庭村から戻って休む間もなく、甕を抱えて駐車場に降り立った。緑の多い大学構内に、うるさいほど蝉の鳴き声が響いている。論文やテキストの詰まったバッグを背負って、十キロもある甕を抱きかかえている。高い新棟の影を縫って歩く陽菜は両手が甕で塞がっているのもあって、額を流れる汗すら拭えない。

 陽菜は大学構内の東棟にある、研究室に向かっていた。東棟はエレベーターも設置されていないような、昭和の時代を感じさせる古めかしい建物だ。研究室はその三階にある。

 棟のリノリウムの床を足が踏む。暑い日差しを遮る棟内に入ってすぐに、ひんやりとした冷気が体を舐める。氷室のような涼しさが廊下に漂っていると錯覚する。外気と内部の温度差に慣れると、すぐに引っ込んでいたはずの汗が、今度は蒸し暑さで毛穴から吹き出してくる。陽菜は階段の踊り場で休みつつ、中は空っぽだが重たい甕を抱えて、ようやっと三階の研究室の前に立った。

 中につくもがいるのは分かっているけれど、マナーとして木製のドアをノックする。ドアが乾いた音を立てる。

「どうぞ」

 怠惰な白の声がノックに応えた。

「失礼します」

 研究室の中は冷房が効いて涼しい。

 普段は院生や教授がいるが、大学院に進学希望者の中には研究棟に入り浸るものも少なくない。なぜなら大学構内の図書館には各ゼミの研究論文がなく、それを保管してあるのがゼミの研究室に隣り合った資料室だからだ。

 もちろん陽菜も例に漏れず、自分が専攻を希望している研究の参考になる先人の論文を読むために、教授の許可を得て、私物を保管してもらっている。

「何、その甕?」

 白が物珍しそうに積み上げられた書籍の間から、陽菜の抱える甕に視線を向けた。

「平良須山の祠跡に埋まってた甕です」

 実際は祠跡でもなんでもないかも知れないが、この奇妙な甕を無意味に鉄塔の足下に埋めることはしないように思えた。工事現場では稀に工期を遅らせまいと、出土したものを埋め直す不届き者がいるらしい。もしそうなら、祠を潰したその下に、この甕があってもおかしくはない。

 白が席を立ち、汗をハンカチで拭う陽菜を尻目に甕に寄る。

「平良須山の祠跡にかぁ」

 感慨深げに呟き、甕の蓋に触れた。一体いつ作られたものなのかも分からない木蓋は年季の入っており、水気で木目がやや腐ってでこぼこしている。蓋に貼られた札は粘土質の土の湿気を吸い、グズグズに崩れていた。

 それらを目の当たりにして、白の目が細められる。

「封をされてた?」

「はい。でも破ってしまって……」

 陽菜は当初の出来事を包み隠さず、白に話した。

「それで、甕が何に使われたのか調査したいんだね」

「今は空っぽですけど、お札を剥がした直後には、確かに中に骨があったんです」

「それが、犬と猿らしき骨って事だね。蓋、開けて良いかな?」

 白がうずうずとする好奇心を隠せない様子で陽菜に訊ねた。

「良いですよ。でもちょっと待ってください」

 陽菜はテッシュとボールペンを持って来て、白に合図する。

「どうぞ」

 甕に乗せただけの蓋は簡単に持ち上げられた。鉄の錆びたような、なんとも言えない腥(なまぐさ)い臭いが鼻を突く。

 陽菜はすかさず甕の中に手を差し入れて、内壁にこびりついた赤黒いものをボールペンの先で削り、そのかすをティッシュに置いた。

「蓋をして下さい」

 ティッシュを丁寧に畳むと、陽菜は白を見た。

「これって何か、調べる事って出来るんでしょうか?」

「出来ないことはないと思うけど、これが血なら、医学部に持って行くのが良いんじゃないかな?」

「血なら医学部……」

「安直だけど。うちに外部機関に検査してもらうような費用はないよ?」

「血じゃなかったら?」

「土かも知れない。そしたら農学部のある大学の学生に頼むしかないかな」

「そんな知り合いなんていません……」

 陽菜が落胆して肩を落とすと、白が蓋をした甕の表面を撫でつつ、陽菜に言った。

「ごめんごめん、冗談だよ。教授につてがあると思うよ」

「教授、協力してくれますかね?」

「教授もこういうの好きだし、何らかの土着信仰がおこなわれていた痕跡が目の前にあったら喜ぶんじゃないかな」

 陽菜は教授が甕を前にしてどんな態度を示すか思い浮かべてみる。確かに陽菜同様、教授も甕の存在を無視できないかも知れない。


 一コマ目の授業を終えた教授が、研究室に戻ってきた。すぐに机の上に置かれた甕に気付いたようで、挨拶を返す前に白の隣に座っている陽菜に訊ねた。

「桐野さん、これ、何?」

「教授、おはようございます……。それ、饗庭村の平良須山の祠跡から掘り出したんです」

「へぇ」

 白髪交じりの髪を撫でつけながら、教授がしげしげと甕を眺めてから、甕の蓋を持ち上げる。

「何か入ってたのかな?」

 空いた手で甕の口を扇ぎ、臭いを嗅いだ。

「はい、初めて見つけたときは動物の骨が入ってました。でも、次に取りに行ったらもう骨はなくて……。これが甕の内側にこびりついてたものです」

 陽菜が手に持ったテッシュを教授に見せた。

 ティッシュを手に取った教授が、干からびた黒い塊をまじまじと見つめる。「ふーん」と頷いて、ティッシュを陽菜に返した。

「あの……、この甕を分析したいんですけど、どこに検査してもらったらいいか、教授はご存じですか?」

 ティッシュを返したあとも、教授が甕をためつすがめつ見詰めながら、応えてくれた。

「そうだなぁ……。わたしの知り合いがいる民俗学博物館に聞いてみてもいいよ。わたしもそこにお世話になってるからね」

 それを聞いて陽菜は顔を明るくする。

「え! いいんですか?」

 白もほっとしたように笑う。

「良かったじゃない、桐野君」

「是非是非、お願いします! あ、でもいくらかかるんですか」

「これ、多分白さんも分析結果を知りたいだろう? 饗庭村にはわたしも興味あるから予算で何とかしようかな」

 それを聞いて陽菜は思わず小躍りした。それを見て教授も白も苦笑を浮かべた。

 甕の分析を教授に任せることにして、陽菜は白と向き合い、ここで教授の手伝いのバイトを始めたときに白に話した『かんすさび』について話を切り出した。

「先輩、かんすさびについてなんですけど、何か分かったことありますか?」

 白が陽菜の言葉に薄く笑う。

「ほらほら、そうやってすぐ人に聞いたらダメだよ」

「でも……、どこからどう調べたらいいか、分からないんですよ」

 教授が会話の間に入って、陽菜に指示をする。

「桐野さん、分析して欲しいなら、甕を梱包して」

 陽菜は慌てて立ち上がり、梱包材を手にして甕を梱包をし始めた。

 甕を持ち帰った翌日には、成分分析を教授の好意で紹介された民族学博物館に依頼した。甕の内部にはおびただしい血液が付着していて、血の量から考えると頭部と胴体は生きたまま切断されて甕に収められたのではないかと言うことだった。しかも血液は二種類あり、ニホンオオカミとヒトだとする分析結果を報告された。甕自体も時代は古くなく、せいぜい江戸末期の小石原焼だろうとされた。小石原焼の窯元がある町は饗庭村からそう遠くない。当時の小石原焼の窯元から買った甕が、封印に使われたのだ。結局、甕についてはそこまでしか分からなかった。




 それが二年前……。まだ陽菜が大学に入りたてで、民俗学研究部にようやく馴染んできた頃のことだ。

 陽菜は教授の雑用のバイトをしながら、謎の甕を研究室の資料室に置かせてもらい、時間があるときに甕について調べていた。また、『かんすさび』についても調べており、似ている儀式を探している。時には教授や助手をしているつくもに相談した。けれど、類似文献は少なく、調査は遅々として進まなかった。

 

 弥生が行方不明になってから家族の心がバラバラになったように、陽菜には思えた。弥生という形で、家族が切り取られて無造作に投げ捨てられたようだ。特に父親と母親の間には気まずい雰囲気が漂っていて、陽菜から弥生の話が出来る状態ではなかった。いろいろな場面で弥生のことを思い出すと、陽菜より先に母親が情緒不安定になることが多かった。年に何度か、母親は饗庭村周辺の街へ出向き、尋ね人のチラシを配るようになった。それも父親のかんに障るらしく、ますます両親の仲は悪くなっていった。

 陽菜も出来ることなら今も弥生がどこかで生きていると信じたい。いなくなってからもそのままになっている子供部屋を覗く度に、弥生のことが案じられた。

 だからかも知れない。この二年間、陽菜が甕と平良須山の研究論文に打ち込み続けたのは。

 饗庭村についての資料を持っていると見当をつけている柳という郷土史家は頑迷な老人で、理由もなく「ダメだダメだ」の一点張りで、一度も見せてもらえたことがない。

 想像の域を出ない為、いつまで経っても論文が完成しないのだ。

 一つだけ分かるのは、祖母が山の中腹に祀っていた祠を毎日欠かさず拝んでいたこと。平良須山にはぐひん様という存在がいること。一人で山に入ってはいけないという決まり事があったこと。一人で入ると神隠しに遭うように行方不明になってしまう。山に関係することだけ思い出せる。

『かんすさび』に関しては、全くと言っていいほど類似資料もなく自分の記憶だけが頼りで、村での聞き取りも出来ないでいる。

 やけになって、山の神について調べたこともあった。

 白に自分の説を披露したとき、いつものごとく彼は興奮したように嬉々としてまくし立てた。

「山の神を祀った祠があったんだよね?」

「山の神かどうか知らないですけど、祠なんだから多分、土着の神様か何かだったと思います」

「山の神と言えば、大山祇おおやまつみがまず考えられる。山というものは、日本では古来から蛇信仰と深い関わりがあるんだ。例えば、三輪山は蛇が神だとされている。山の形そのものがとぐろを巻いた蛇の形に見立てられるからなんだ。桐野君の祠は土着の神だから正体不明だけど、まずは蛇神だと仮定しよう。で、大山祇が何故出てきたかというと、大山祇が蛇体であるとする説があるからなんだ。大山祇の妻の鹿屋野比売神かやのひめという草の神なんだけど、この女神も蛇体とされている。カヤノヒメの別名は野椎神のづちのかみと言われて、これも蛇体なんだ」

「蛇……、ですか」

「うん、でもね、古事記では神とされた野椎神も野槌のづちと呼ばれる妖怪へと零落した。そもそも同じ存在ではなかったのかも知れない。とにかく最近では、野槌をツチノコだという論も展開されているほどだから、やはり、蛇とは切り離せない存在なのかも知れないね」

「それで、祠の神様は鹿屋野比売神なんですか?」

「そういえば、平良須山のぐひん様は人を食うと言われてるんだよね」

「はい。一人で山に入ると喰われるって祖母が言ってました」

「人を食うと言うことは、神様の生け贄としての意味もある。八岐大蛇やまたのおろちって知ってるよね?」

 須佐之男命すさのおのみことが退治した八つの頭を持つ蛇の化け物のことだ。そのことを告げると、ますます白の表情が生き生きとしてくる。

「古代の日本では八と言う数字は聖数とされていて、数が大きいという意味が込められている。例えば、八百万やおよろずの神とか、八紘やひろとか、八咫鏡やたのかがみとか」

「江戸のことを八百八町って読んだのと同じですか?」

「そうだね。とにかく、八岐大蛇は八又の大蛇という意味で、八つの頭を持つ大蛇だった。生け贄を与えなければいけない神というのは、悪性の神だと思ってる。古事記に出てくるから、もしかすると天つ神よりも古い神だったのかも知れない。とにかく、化け物として八岐大蛇は須佐之男命に退治されてしまう」

「天つ神による土着の神の征服ですね」

「古事記はそういった征服の歴史を書いている部分もあるね。で、平良須山の祠に祀られていたのは、仮に土着の蛇神だったとする。人を食うというのは伝承の名残で、生け贄を捧げねばならない荒神あらがみなのではないかと言える。桐野君の持ってきた甕の中の血も、荒神に捧げられた生け贄のものなのかも知れないね」

「蛇の荒神ですか……」

 白がもっと喋りたそうに薄笑いを浮かべている。こうなったら、白が黙っていられない性分だと、陽菜は嫌というほど知っている。

「荒神は、アラハバキ神であるとする説もある。アラハバキの『ハバ』は、実は『はは』と読み、『はは』は蛇のことなんだ。アラハバキは謎めいた神で、いまだに正体が分からない。ただ、この説によると蛇神であることになる。話がそれたと思うだろう? 違うんだな。この『はは』を山の神とするならば、山の蛇の意味で『山はは』、強いては『山母』いわゆる『山姥』へと変化する。ここで、人を食う存在として認知できる」

 陽菜は白の展開する説を静かに聞いていたが、突然山姥だと言われて混乱した。

「なんで山姥なんですか?」

「うん。山姥は人を食う、山に出る鬼のようなものだ。ただ、山姥が山の神だとすると、山の神が女性だとする説にも繋がってくる。山姥が人を食うというのは、山の神に生け贄を捧げていたと同義じゃないかな」

「それで、祠に祀られていたのは生け贄を求める蛇神だと言うんですか?」

「そうだね」

 一通り話すことができて、白が満足そうな笑みを浮かべた。

 陽菜は顎に手を当てて、考え込む。仮にあの祠が蛇をご神体にしていたとする。でもそれを祖母が信仰していたのは何故だろう。その祠も鉄塔を建てた際に壊されてしまった。その後、祖母は認知症を患って鉄塔に首を吊って死んでしまったのだ。この一連の流れを白に話すことが出来ずにいる。祠を壊したせいで、祖母があんなことになったとは思いたくない。もし、神に殺されたのだとすれば、殺されるべきは……、鉄塔を建てた人間じゃないか。

「平良須山と桐野君の家は何か関係があるの?」

 自分の事務処理の作業をし始めたと思っていた白が、思い出したように陽菜に訊ねた。

「平良須山は祖父の持ち物でした。祖父が言っていたんですが、元々は桐野家本家の持ち物だったとか……」

「じゃあ、平良須山を管理してたのは桐野家か……。祠も桐野家が管理してたんだろうな……。山の所有はいつくらいからか聞いたことがある?」

「特には……。でも桐野家はかなり古い家系で、江戸時代からあの辺りの豪農で庄屋も務めたとか、祖父から聞いた覚えがあります」

「江戸時代からかぁ……。それについて、文献は残ってるの?」

 陽菜は残念そうに首を振る。

「いいえ。多分、それに関する文献を所有している郷土史家さんには連絡を取ってるんですけど、会ってくれないんです」

 椅子を軋ませて陽菜と向き合うと、白は腕を組み、唸った。

「そうか、そういう人もいるからなぁ……」

 ブツブツと呟きながら立ち上がり、左の壁に設置している本棚に歩み寄る。

 陽菜は白が何をしようとしているのか、見つめた。

 白が本棚に並ぶ文献や書籍に目を走らせて、何か探している。しばらくして目当ての本が見つかったのか、冊子を手に取った。

「これだったと思うけどなぁ……」

 そう言って、冊子のページをめくっていく。とあるページで手を止めて開いたページを陽菜に見せた。

「これは……」

 陽菜は白が何を見せたいのか分からないまま、冊子のページに目を移した。

 ページの表題に、『漂泊民の信仰』とある。

「漂泊民……」

「このレポートを書いた人は、サンカについて書きたかったんだろうね」

「サンカ、ですか……」

 サンカとは、と白が流暢に説明を始めた。

 彼らは定住せず放浪しながら、山などで狩猟採集をして暮らしていた集団で、集団によっては川漁や竹を用いた細工物、蓑(みの)や箒(ほうき)などを作って売り歩いたと言われている。また、戸籍も持たず、里で盗みを働いたりすることもあった。一時期、サンカは特殊な集団だったと主張する風潮があったが、今はオカルト的な集団だったのではとされている。ただ、江戸時代などの文献などでも、明治維新以降の官憲からもサンカと呼称されていたのも事実だ。いくつもの説があり、捏造だとする時代もあったようだ。

「このレポートには、山間部に飢饉などで避難した集団が信仰している対象について書いてある。さっき、僕が桐野君に話した蛇神について覚えてる?」

「はい。山の神のことですね」

「ここに、漂泊民は茅(かや)を使って、蓑や箒などを製造していたとあるね?」

「はぁ」

 陽菜は白が何を言いたいのか見当も付かず生返事をした。

「最初に、鹿屋野比売神(かやのひめ)について話したと思う。カヤノヒメは草祖草野姫くさのおやかやのひめ)書く場合もある。カヤノヒメの草という字は実は茅を意味するものなんだ。そして、茅はしめ縄やの輪の原料でもある、いわば神聖なものだ。余談だけど、しめ縄も蛇を表しているという説もあるんだ。とにかく、僕が言いたいのは、このレポートにある漂泊民が作っていた箒のことで、昔はこの箒を茅や藁で作っていた」

 白は箒が茅で作られたことで何が言いたいのだろうかと、陽菜は首をかしげた。

「古来、箒は『ははき』と読む。それが転訛して『ほうき』になったんだ。さて、さっき僕は『はは』は蛇のことだと言ったよね?」

 陽菜はなんとなく白の言いたいことが分かってきた。

「要するに、茅で箒を製造していた漂泊民が信仰している神は、蛇神じゃないかって事なんですね?」

「そうだよ!」

 白が嬉しそうに手を叩いた。

「もしも、桐野家が漂着民と関係していたなら、彼らが信仰した蛇神を引き継いだ可能性があると思うよ」

 陽菜は祠の閉められた扉の中を見たことがない。祖母はその中に何があったか知っていただろうか。生け贄を求める蛇神だったならば、祖母が祠を壊されたあと自死してしまったのは祟りなのかも知れない。何故祖母だったのか、それはおそらく祠を祀っていたのが祖母だったからではないか。祠を壊され、祀られず、蛇の怒りを買った祖母は命を取られたのだ。理不尽だが、神とはそういうもので人知を超える存在だ。さらに正体の分からない神は、下手に障ると祟る。触らぬ神に祟りなしという言葉があるように、関わってしまったら最後、害をなす存在に変わってしまうのだ。

 今も甕は持ってきたときのまま、蓋をして資料室の片隅に保管されている。蓋をしているだけで、甕からにじみ出る禍々しさが和らぐ。札の効果なのか、それとも装置としての甕の機能が壊れているのか、どちらにしても蓋をした甕は沈黙を守っていた。

いいなと思ったら応援しよう!

あおさとる🐱藍上央理🐱大野ちた
面白かったら、応援よろしくお願いします。いただいたチップは小説家としての活動に使わせていただきます!