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夜明け前、玄関の上がり口で陽菜は体を縮こまらせて、磨りガラスの引き戸をじっと見つめ、何…
細長い山間に民家が散らばるように点在している饗庭村を、峠の木々の隙間から望む。 陽菜…
陽菜が大学に入学してから二度目の夏休み。とうとう陽菜は十九歳になった。 タイムカプセ…
陽菜は食い入るように甕を見つめた。高さはだいたい四十五センチから五十センチ。口径は三十…
「誰も入らないから山菜が取り放題だっていつも言ってたから、母さん、一人で入ったらいけない…
布団の中に潜り込んで寝ていたはずなのに、陽菜は足裏に湿った感触を覚えて目が醒めた。 …
弥生がいなくなった翌日に母親を饗庭村に残したまま、陽菜は大学へ向かった。運転しながら、弥生の安否で頭の中がいっぱいになっている。自分を捜索隊に交じって弥生を探したかったが、村に残った母親と父親に任せるしかないのも事実だ。 今、自分に出来ることをするしかない。甕の謎を調べたからと言って弥生の行方が分かるとは思わないが、何かしていないと弥生のことばかり考えてしまう。 一番日差しの厳しい昼間にようやく大学に着いた。饗庭村から戻って休む間もなく、甕を抱えて駐車場に降り立った
『陽菜、テレビ見てみて』 図書館で論文の資料を読んで頭を抱えていたとき、直也から音声通…
直也から電話があった。真弓の葬式からひと月ほどしか経ってない。一体何事かと思って、陽菜…
「田舎の家と蔵と山を売却するから、ダメだ」 饗庭村の家に行きたいと食事時に陽菜が父親に…
住所近くのパーキングに車を停め、スマホで地図アプリを開き、確認しながら竹内の家を見つけ…
これらを読んで、陽菜は肩を落とした。断片的ではあるが、ぐひん様を封じる方法は書かれてい…
しんしんと空気が底冷えするような寒さに山の林道も凍り付く。闇が深く、斜面の木々の奥だけ…
山を下りる途中、曇り空からちらほらと雪が降り始めた。父親と一緒に林道の坂道をとぼとぼと下る。寒さに鼻の頭がじんじんしてくる。父親も陽菜も無言のまま麓まで戻り、家に帰ってきた。 玄関に母親の靴があったので、今日は町に出掛けなかったようだ。雪が降り始めて、村を回って得られるわけがない弥生の目撃情報の聞き取りを諦めたのだろう。 雪に降られて白くなった上着をバサバサと振って雪を落とす。玄関の引き戸を閉めても、寒さがしんみりと肌に染みてくる。父親はさっさと居間へ行ってしまった