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小説詩集「消えない町」
小学生のころ住んでた町のことをいつも考えてる。夏の浜辺で貝殻に耳を澄ますみたいに、目をつむって考えてる。中学の頃までいたかなあ、あの町に。
「懐かしくって、」
土曜の午後とかね、ふとした瞬間に思い出してしまうの。
「それでいつもグーグルマップ見てるんだ」
「そう、」
ぐるぐるさせてリアルに歩いてみるの。
「どこがリアルよ」
って友人は言うけど、歪んだ歩みがね、私のリアルに近かった。
「理科の時間にね、」
虚像とか、先生が光源をうごかしたりして、訳のわからんこと教えてくれるじゃない。んで何が虚像なのか私、わからんかったの。
「ガチ文系だからね、うちら」
「てかさ、ふりかえったら、」
「ふりかえったら?」
「ふりかえっったら、彼がいて、」
近すぎるその子が、とっても大きく見えたけど、誰よりも大きく見えてるわけだけど、それって思考のサイズとおんなじなわけで虚像なんかじゃなかった。
「好きな子がいたんだね」
彼女が直球でかえすから、頷いた。
「一度だけ、彼のお父さんの店に裏から入って、」
「お店?」
「ケーキ屋さんだったんだよ、彼んち」
道具がね、燻銀に光ってて、まばゆくって私、目を閉じちゃったんだよ。なので、次の瞬間お店のテーブルに彼と向かい合わせに腰掛けて、ケーキを食べてるのが不思議だった。
「なるほどね、いい思い出だね」
とか彼女がいうので、私は首を振った。
「いい思い出じゃないんだよ、」
翌朝彼のお父さんはもういなかった。町の高い煙突の階段をいちだんいちだん登ってくみたいに、遠くへ行ってしまったんだよ。
「どうゆうことよ」
「わからん、」
わからんけど、その夜テスト勉強につかれてさ、開けた窓から星々に向かっていく人を私、見たんだよ。
「幻視?」
「きっとそうだと思う、」
だけどさ、それが時々ひどく近に見えて、不思議に思う。
「で、彼はお母さんの育った町に引っ越してった」
「どこの町か分かってるの?」
「わからんよ、」
うちも転勤族だったわけで、そのあとすぐに引っ越したから。
「迷子、みだいだね」
彼女が言った。
「うん、」
迷子になった二つの風船がさ、世界を彷徨いながらこの地球の上に浮かんでる、みたいにワイらは生きているんだよ。
「さびしいね」
「さびしくないよ、」
一緒に見た光景が近くに見えてさ、ワイらを見守ってるから。
「つまり巨像だな」
「そう言うと思ったってた」
とか言いながら、消えない像が今この時も結ばれて、互いを支えているような、そんな気がした。
おわり
❄️理科という箱の中に詰め込まれたわからなさが、Googleマップに閉じ込められた思い出の街を虚像にする、はては巨像化するみたいな、今世紀最大の、はじまったばかりですが、不思議の国のアリス的な?もちろん全く違うおはなしですが、そんなおはなしです。
暑い夏の最後を走り切ろうとおもいます。無我夢中です。また書きます。ろば