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小説詩集「スリラー」

どの教室にも人がいなくって、次から次へとドアを開けた。

窓の気配に振り返ったけれど誰もいなかった。無人のエスカレーターで降りてって外に駆け出したのだけれど、散ったあとの街路樹が生気を無くしたみたいに立ち尽くしてるから、私は襟をぎゅっとした。

「ただいま、」

とか言ったけど、家にも人の気配はなくって、虚しいただいま、が消えてった。

「ママ?」

「おにいちゃん?」

私は家族を順番に呼んだ。

「おかしいよ、なんで誰もおらんのよ?」

て問いかけたのはバスルームの鏡の中の自分だった。

「おらんよ、誰も、」

ひとっこ一人ね、みたいにさらっとした返事がもどってきた。

「学校からも人が消えててさ、んなので帰ってきたのよ、わたし」

「慰めてもらうつもりで?」

「まあ、」

とか言いながら少なくとも何かの形で癒されたかった、て思う。

「やらかし続けてるんでしょ?」

鏡の自分は言うけれど、そうでもないと思う。ただ、なにか閉じてる感は否めなかった。

「しかたない、友達のとこいってみるか、」

って言ったけど、鏡の自分に引き止められる。

「誰もおらんよ、そこにも」

とか、でも私はさまよう狼みたいにかど角をめぐった。点在する家々をノックしながら。返事がなくてもズカズカと踏み込んでって、おーい、って捜索する。するとクローゼットから苦しげな声がもれてきたわけで、私は勢い込んで開けたけれど、救出したのは鏡に映った私だった。

「ほらね、誰もいないでしょ」

私が私をみてカラカラ笑うから、もしかして町中の人を消したのは、みたいな疑惑が急浮上した。

「私がみんなを、消したわけ?」

首をふる鏡の私。

「分かってるはずじゃない」

「なんのこと?」

「見えないだけだって」

「見えない?」

「なんなら見たくもないし、いたくもないんだよこの荒野に」

「んなら一緒に逃げようよここを」

とか言ったけれど、鏡の私はジャラジャラとした足枷を私に見せたのだった。

「私を置いてっていいんだよ、だってただの、」

「ただの?」

「ただの役割だもの」

「いいの?」

「いいんだよ」

鏡の私はびっくりするほど毅然としてた。

町を出る最終列車がでる予感に私は駆け出していた。裸の木々が行くてを阻んだけれど、泣きながら走り続けた。疲れ切った心に目覚ましみたいなベルが鳴り響いて、私はホームまで一気に駆け上がった。

「おーい、こっちだ」

とか、誰かがドアの開閉を遮るみたいに立ちはだかって手を振るから、その腕にとびこむみたいに電車にのりこんだ。

「自分以外の人を、今日はじめてみたよ」

みたいに言ってほっとして、私は私とはなれた。

おわり

❄️解放されているのに解放されていない、囚われの身的な昨日の私、的今日の私が走ります。な、スリラー?なお話です。また書くしかありません。ろば


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