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小説詩集「漏電のよる」

ピンポーン、とかインターホンが鳴ったから私たちは凍りついた。

こんな夜中に誰が、みたいに凍りついた。

「電力会社のものです」

とか言われて、顔を見合わせる私たち。

だけど、好奇心旺盛な妹が我慢できずにドアを開けた。

「漏電の疑いがありますので調べさせてもらいます」

ってズカズカ入り込んできたけど、この訪問者はとても怪しかった。

「漏電、ですか?」

「お宅だけ何かが滞っているんです」

「何かが?」

聞き返したけれど、身に覚えがあったものだから、私は家の奥に向かってズンズン進んでくる彼を遮りながら後ずさった。

「ここがあなたの部屋ですね、」

とか問われて、結局自分ごと押し込まれるみたいになってドアが開いた。

「ここではなにを?」

隠し事はなしですよ、みたいに調査員が圧倒するので、私は白状する。

「まいにち、」

「まいにち?」

「まいにち同じ映画を再生してました」

最初は英語学習のためだったけれど、おなじシーンが心地よくって、その再生は止まらなくなっていたのだ。

「つまり?」

「つまりホームボディーてきな、」

って私は薄ら笑いをうかべた。

「隣の部屋は弟さんですね」

頷いて観念した私はドアを開けた。

弟は私たちが入ってきたことにも気づかないふうにチェロを弾き続けてた。

「同じフレーズですね」

「同じフレーズの繰り返しです、」

でも、仕方ないんです。先生がとてもピッチにきびしい人で、音なんか外そうものなら二度と口もきいてくれないわけで、なので。

「なので?」

「なので、」

同じフレーズをもう間違えないぞ、的感覚で練習し続けているんです。

「なるほど」

調査員は頷きながら、やっぱり次の部屋のドアも指差した。

「妹の部屋です、」

私たちは、思い出の部屋、って呼んでるんですけど、とかクドクド説明し始める。

「とにかく開けてください」

私はうなだれながらドアを開けた。

「あれは聞き役ロボ、ですか」

「ええ、やな思い出ばかりなものですから」

いつの間にか妹は部屋に戻ってて、取り憑かれたみたいにロボに話してる。

ロボがこちらに気づいて微笑んだから、私も手をふって微笑み返した。

「では、全員リビングに集まってください」

とか調査員が号令をだしたから、私たち4人は容疑者みたいにソファーに並んだ。

「ぼくはね、」

調査員が改まったみたいに話し出すから息をのんだ。

「僕は答えを持って、あなたたちがくるのを待っているんですよ、」

答えとは、こちらから持ち出すことができないものですから。

「雨乞いしたって雨は降らないよ、みたいなことですね」

得意げに私はそう言ったけれど、彼は首をふる。

「そうじゃなく、雨乞いはしてほしいんです、でなければ雨は染み込みませんから」

なるほど、的に私は頷いた。

調査員が、しずかに立ち上がったので私たちは見上げた。

彼がサッと片手を振った。

風の吹く音がにわかに近づいてくる。で、おののきながら私たちも立ち上がった。風が手を伸ばすみたいにバリバリと屋根を剥ぎ取った。壁も引き抜かれるみたいに飛ばされてって悲鳴をあげて互いにしがみつく私たち。床が砂みたいに足元をすくうから血の気が引いて目をつむる。と、気配に目をあけると風はぴたりと止まってて、私たちは更地の上に立っていた。今生まれたみたいにまっさらになって立っていた。

「ピンポーン」

とか再びインターホンが鳴って驚いたけど、それはママだったわけで、私たちは慌てて鍵を開けた。

「あら、みんな珍しくそろってるわね」

とか言ったけど、ロボが、

「漏電、ってぼくのことだったんでしょうか、」

って耳打ちしてきた。

「そうじゃないよ、」

って私は首を振る。

あの時、風の中に言語があって、私はそれを聞いたんだ。

「ロボ、行くよここかららさきにさ」

とか意気込んだら、弟の部屋から新しいフレーズが流れてきて、私たちはさらに勢いづいた気がしたのだった。

おわり

❄️漏電の夜にはイリュージョンが付きもの、みたいな、夏の夜の嵐的お話です。事象は1度にやってくる的側面も見逃せません。そんなこんなが渦巻く夏の夜の夢を見たろばです。え?また書きます。ろば





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