見出し画像

小説詩集「会いにきたよ、のロボばなし」

こないださ、とか話し始めた。

「こないだ、雪が降ったでしょ」

そのときね、嬉しくって雪のうえをゴロゴロしたの。

「いや、それほど降ったっけ?」

「うん、ゴロゴロするほどじゃなかった」

なので、服も汚れたし、なんなら体も傷だらけになってしまったの。

「で、家に帰ったら」

「風呂に入った?」

「ううん、洗濯機に入れられたの」

「まじか」

「そ、」

それでね、グルグルされてるうちに自分が何か削ぎ落とされていくみたいな感じがしたの。じっさい翌日から、どんどん違う自分になっていくのに驚いたの。

「例えば?」

「たとえばね、」

口から勝手に言葉がでてきて、頭の中の私とはまるで別人格みたいだったの。

「私にまかせてください」

なんて言う言葉使ったことある?仕事上で。それを平気な顔して口が言うの。

「覚悟はできてますから、私の責任でやらせてください」

みいなこと、使うシチュエーションなんてあるかしら。でもね、この口がスラスラとそう言ってのけるの。口が言う、と言うよりは、体が言うみたいな。話し方も早口になってどんどん洗練されていく、みたいな感じだった。

「そしたらこないだ、レセプションなんかに駆り出されたりしてさ」

「すごいな」

「ううん、」

すごく馬鹿げてた。口が大胆で、ビジネス書でしかみたことのない単語を次から次へと早口でまくしたてるものだから、どこの女史だよコイツ、痛いな、みたいになりながらも、ますます人が集まってきて、私の頭がついていけなかった。

「その時、君の頭は何考えてたわけ?」

「うん、子供のころ遊んだ河原ことかな」

「どうゆことさ」

「かわらにね、」

石がゴロゴロしてるじゃない。皆んな可愛くまんまるになってさ。でも一つ一つが花こう岩です、とか玄武岩ですとか、頂上あたりから生まれましたとか、中腹あたりからやってきましたとか、さまざまな主張を内包して、まんまるになって転がってるみたいな、あれに似てたのよ。

「私の繰り出す話じゃなくってさ、」

私も知ってますよ、その単語、的にみんなゴロゴロしてたの。

「ごろごろ」

「うん、ごろごろ」

なので、その時ね、魂と体のことを分けて言う人が時々いるけれど、本当に別物なのかもって思えたの。

「ぱっと見、」

それほど変わった感じはしないけど、とか彼が言う。

「だって、」

壊れてた私のガワの修理が終わってね、届いたの。

「で、そのガワの中に」

「そ、その中に、」

私の頭脳が嵌め戻されたわけ。

「君は、ロボだからね、」

元通りになってよかったな。

「うん、もとどおりになってよかったよ」

でも、もとどおりになったらさ、もう知らない人たちは寄ってこなくなったの。

「で?」

「で、会いにきた」

だって話せる人は、とかいいながら照れた。

「僕しかいないから?」

とか言いながら、私のロボ話にため息する彼なのだった。

おわり

❄️雪の日の贈り物が魂と体の分離だったなんて、とか私の口が言います。いえ、この指が叩くんです、みたいな名ばかりの立春です。冬と春が私のなかで分離してるのよ〜的な冬の声も聞こえるような、聞こえないような。また書きます。ろば


いいなと思ったら応援しよう!