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(詩)風の口付け、草の恋文

秋の日の
穏やかな昼下がりの

ちらつく日差しや
空気の中に

見え隠れする
わたしたち生命の持つ
永遠のかけら


いつかわたしの存在が
誰の胸からも
忘れ去られてゆくように

わたしの想いもまた
やがて
この地上から消えてゆく

それでもいつか
こんなさびしい
秋の日暮れの残照の

はるか遠い
未来の国で
見知らぬ誰かが

風のそよぎや
ふるえる草に
消え去ったわたしの想いを
ふっと思い浮かべて
くれるかもしれない

そして
かすかに笑ったり
泣いてみたくなったり
してくれたなら

わたしの生命も
そんなになにもかも
無駄だったとも
いいきらずにすむだろう

吹きすぎる風や
色とりどりの草花や
飛び回る虫たちが
さりげなく
わたしたちとまじわりながら
その胸のどこかに
蓄えていてくれる

わたしたちの想い

まるでわたしたちが
いつかまたこの地上に
帰ってくる時のため

その居場所をちゃんと
残しておこうとするように


ふるさとは
場所でもなく時代でもなく
生命の中を
流れゆく想い、だと

だから生命は
今日も生きてゆける

あなたがわたしを
愛してくれたように
わたしもまた誰かを愛そう

十年先、百年後
そしてそのまた千年先の
見知らぬ誰かに
おくるわたしの想い

風の口付け、草の恋文

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