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(詩)オオカミ少女

それまでオオカミに育てられた少女は
オオカミの世界のテレパシーを使って
意思を伝達していた

だから少女に
言葉はいらなかった

オオカミたちの世界観の中で
生きること、存在すること
そして世界から去ってゆくことの
その生命の永遠を学んだ少女は
涙を知らなかった


その後少女は人間に発見され
人の中で育てられるようになった

少女はそして
言葉と涙をおぼえた
テレパシーと永遠を失った少女は
仕方なく言葉と涙をおぼえた

テレパシーを交し合う相手を失い
言葉しか使えない人間を相手にするために
少女は言葉を覚えるしかなかった

永遠の意味も知らず
ただ別れとかなしみに
泣くことしかできない
人間たちの中で生きてゆくために

少女は永遠を忘れ、涙を手に入れた

ビルとアスファルトと
偏見と騒音と
排気ガスと核兵器に囲まれた
都会の中で

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