(詩)八月のラヴレター

中一の夏休み
差出人の名前のない
一枚の暑中見舞いが届いた

きれいな大人びた文字で
「あなたが好きです」とだけ
記されていた
その横に手描きの
朝顔の絵が描かれていた

クラスの女の子の顔を
ひとりずつ
思い浮かべてみたけれど
誰からなのか
思い付かなかった

二学期の始め
胸ときめかせ
ラヴレターの主を
さがしてみたけれど
やっぱり誰なのか
分からなかった


教室には空席がひとつ
その子、転校したんだって
ええ、そうだったんだ!
ちっとも知らなかった

その子は
クラスで一番無口で
大人しかった女の子
だから一度も
話したことはなかった

その子が座っていた席の
机に落書きが残されていた
それは……朝顔の絵

「あなたが好きです」の
暑中見舞いの朝顔の絵と
おんなじ朝顔だった

その席から
校庭の朝顔が見えた
朝顔は気持ちよさそうに
風に揺れていた


中一の夏休み
ラヴレターをもらった
差出人の名前のない
朝顔の絵の暑中見舞い

生まれて初めてもらった
八月のラヴレター

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