(詩)野いちごの実
忘れもの、ひとつ
大地の忘れもの
風の忘れもの
雨の忘れもの
草の忘れもの
木の葉の忘れもの
忘れものが
またひとつ
海の忘れもの
時の忘れもの
誰かの
忘れものがひとつ
そしてこの星は
いつも
忘れものがたくさん
忘れものでいっぱい
この星は銀河系
かなしみの第三惑星
この星が
銀河系の忘れものだから
忘れられた
宇宙ステーションだから
駅にはいつも
忘れものがいっぱい
わたしからあなたへの
忘れもの
あなたからわたしへの
忘れもの
人の忘れものは
いつも思い出
美しい
美しすぎる
思い出ばかり
思い出がひとつ
忘れものがひとつ
わたしの中にいつまでも
忘れられた
あなたの面影が
忘れられたまま残されている
そして残されてゆく
永久の時の中を
季節は春から夏へ
春から夏への
忘れものがひとつ
またひとつ
花開き
虫たちは目をさまし
若者たちは夢を見
恋とめぐり会う
春から夏への忘れもの
そして今は
あなたが
残していった忘れもので
わたしの胸は
いっぱいに満たされている
しずかに
しずかな海の潮騒のように
忘れもの、ひとつ
あの日
あなたの前で
流し忘れた涙が、ひとつぶ
忘れもの、ひとつ
そして今わたしが
ひとりたたずむ公園のベンチに
子どもたちが忘れていった
野いちごの実が、ひとつぶ
それでも
いつかまた
誰にも知られず
大地へと
かえってゆけることでしょう
わたしとあなたの
恋の実が
そして、そうだったように