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(詩集)きみの夢に届くまで

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詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
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(詩)きみの夢に届くまで

この夜の何処かで 今もきみが眠っているなら この夜の何処かに 今きみはひとりぼっち 寒そうに身を隠しているから 今宵も降り頻る銀河の雨の中を 宛てもなくさがしている 今もこの夜の都会の片隅 ネオンの雨にずぶ濡れに打たれながら 膝抱えさがしているのは きみの夢 幾数千万の人波に紛れながら 路上に落ちた夢の欠片掻き集め きみの笑い顔を作って 都会に零れ落ちた涙の欠片の中に きみの涙を見つけ出せば 今も夢の中で俺をさがし求める きみの姿が見えるから この夜の何処かに 今もきみが

(詩)面影にふる雪

いとしかった人の面影にも 雪が降り積もればいいのに 純白のけがれない雪が しずかにしんしんと 幾夜もかけて いくえにもいくえにも 降りしきる雪の中で それを思いつづけている わたしさえ 気付かぬうちに まるでこわれた映写機のように それをただいたずらに いつまでも映し出す わたしの心の大地へと 思い出もいとしさも 記憶も感触もぬくもりも ふるえもこどうもといきも 交し合った さようならのことばも I love youの言葉さえも しんしんと降りしきる 雪の日々の中で

(詩)冬のお風呂

ひざを抱えている ずっと ひざ小僧抱いている 冷めない水があるならば この星に降り注いだ 雨の中のほんのわずかの水が この星のかたすみで暮らすわたしを 今やさしく包み込み 凍えたわたしを暖める奇蹟 昔々生命は 冬のお風呂の中で誕生した 純白の雪の降りしきる夜 この星に生まれた生命は 美しい生命で ありたいと願った 凍えた体と 汚れた心を包み込む 冬の夜の奇蹟 ひざを抱えている ずっと ひざ小僧抱いている いつか水は冷めると 知っていて いつか夢も冷めると 知って

(詩)雪だるまの会話

ぼくたち 雪でできているから 冷たいはずだよね 子供たちが 白い息をはきはき つくっていたし こんなに風も 空気も冷たいし 冷たくなかったら ぼくたち とけてしまうはずだよね なのに なんだかぼくたち あったかいね ほっぺただって まっかにほてるくらい あったかくて やさしくて ぼくたち こうふくだよね ほら こんな真夜中なのに 子供部屋の窓から ねむたそうな つぶらな瞳が ぼくたちが とけていないか 心配そうに見ているよ

(詩)結晶

あ、ゆきだ ほら、ねえ、ゆきが 空からちらちら ひらひら舞い落ちて 舞い降りて こっちへやってくるね どうして雪は あんなに白いのかな 今もどこかで誰かが 夢をつかまえようとして もがいている 人知れずひとりぼっちで もがいているから 人がどうして人に 感動するか知っているかい みんな人なんて 生まれた時からずっと 見てきたはずなのに どうして人は どんなにみじめな姿になっても 生きることをやめないか 生きていることだけは やめてしまわないのか あ、ゆきだ ほら、ね

(詩)冬のカルーセル

止まったままのカルーセル 雨の日だけ カルーセルが回っているのを 見た子どもは カルーセルは雨の日だけ 回るものだと思う 風が吹く時だけ カルーセルが回っているのを 見た子どもは カルーセルは 風が回しているのだと思う 止まったままのカルーセル ひとりの子は 雨が降るのを待ち 別の子は風が吹くのを 待っている 止まったままのカルーセル 雪が降る時だけ カルーセルが回っているのを 見た子どもは もう一度 雪の中で回る カルーセルが見たくて 冬の遊園地のすみで じっ

(詩)雪のにおい、雪の音

背中にとけた雪の一片を 猫が気付かないでいる ふっと冷たく思ったろうか 雪とも知らずに 野良猫の夢の中にも 降るといい ダンボールの家にも 積もればいい 夢から醒めた小猫が 雪のにおいを嗅いでいる くんくんくんくん この物体は一体何だ 夜明け前に 夢から醒めた野良猫が 耳を澄まして 聴いている雪の音 いとしかった人の足音 思い出すように、聴いている

(詩)サンタクロース

自分より 不幸せな人を見ると 自分が幸せなことが なんだか 恥ずかしくなる 人込みの中で 泣いている人を見ると 笑っている自分の顔が ロボットのように思う 飢えた子どもたちの映像を TVでながめながら おなかいっぱいの ごはんを食べている わたしがいる 電車を下りて 住む家のない人たちが ふるえている冬の通りを 足早に通り抜け 暖房の効いた 家のドアをあける時 やっぱりどうしても 振り向いてしまう わたしはばかです、ただの なあんにもいいこと なかったんですよ わた

(詩)愛する

きみが空を愛するように ぼくはきみを愛した きみが海を愛するように ぼくはきみを愛した きみが星を愛するように ぼくはきみを愛した きみが風を愛するように ぼくはきみを愛した きみが故郷を愛するように ぼくはきみを愛した なつかしい空、なつかしい海 なつかしい星、なつかしい風 なつかしい街 初めて会った時 初めて会った人なのに なつかしかった あの時きみが どうしてもなつかしかった 限りない空のように 限りない海のように 限りない星のように 限りない風のように

(詩)新東京駅

生まれてはじめて 上京した人だけが下車する 新東京ステーション 一度下車したら もう二度と訪れることはない 夢やぶれ帰郷する人も 都会になじんで 東京人になってしまった人も もう二度と再び その駅の改札を くぐることはできない ただ一度生まれてはじめて 東京を目にする時にだけ その駅のプラットホームに 佇むことができる 地図にも時刻表にも存在しない その駅の…… 新下関 新山口 新岩国 新尾道 新倉敷 新神戸 新大阪 新富士 新横浜 かばんに夢だけをつめこ

(詩)少女へ

少女へ 生き急ぐきみへ その席に座っていた ひとりの少女が じっと花を見つめていたことや 時々ひとりで笑っていたことを 誰も知らなくても 痛々しいほど腰の曲がった 老婆が歩く姿や 駅前の階段に座り込んだ 浮浪者の姿をどんなにか かなしそうな目で見ていたことに 誰も気付いていなかったとしても 花の中に少女のほほえみは残る 老婆や男の心の片すみに 少女の涙の粒は住みついて 少女の声や夢は 小さなかけらに姿を変え それは種となり土に眠り やがて春がまた訪れて 去年の今頃

(詩)ヘリコプター

草原で寝転がる わたしの上空に ヘリコプターが飛んできた てんとう虫という名の ヘリコプターは わたしのほっぺたに 影を落として なんにも知らない ヘリコプターは そして わたしのほっぺたへと 着陸します ゆっくり、ゆっくりと 着陸しまーす 今その空港が雨で 濡れているとも知らないで 涙という雨で 草原に寝転がる わたしの上空に ヘリコプターが飛んできた

(詩)いいわけ

ぼくはきみに さようならとは 言わなかった ぼくはきみに さようならを 言わなかった ぼくはきみと さようならを 交わさなかった 夜空を見上げると 満天の星が瞬いていた きみが去っていった 夜だというのに 静かに風が ぼくのほおをなでて 吹きすぎていった きみはいまごろ どのあたりを 旅しているだろうか ふとぼくは そんなふうに 本当に自然に そんなふうに思えた 強がりや慰めや 気休めじゃなく 確かに そんなふうに思えた 今ぼくはひとり きみが好きだった 港の灯

(詩)ネオン街をよこぎって

ねえ、きこえてる 受話器を通して ねえ、こっちの音 そう あなたの好きだった東京の音 今わたし 新宿駅の公衆電話からかけているから ええ相変わらずよ 土曜日の夜だからすごい人波 でもわたしは仕事だから これから駅の地下道を抜け表に出て イルミネーションの海を人波をかきわけ ネオン街をよこぎって オフィスのあるビルにいくの ええ、元気よ ビルのエレベータをまっすぐに上がり オフィスに辿りつくと そこは人影もなくしずかで 暗闇の中にてさぐりで 照明のスイッチをさがす パソ