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きみはそうやって今日まで ずっと大地に立っていたんだね 人間や動物たち 子どもたちの生き死にを じっと見下ろしながら こっそりと笑ったり泣いたり そして絶望しながら それでもやっぱりきみは 明日もそうやって 立っていてくれるんだね 遥かな天空を渡る風だけが きみのため息を知っている
楽しい日は 楽しいことを日記に書いた 悲しい日は 悲しいことを日記に書いた 苦しい日は 苦しいことを日記に書いた あなたと出会った日 あなたのことを日記に書いた あなたとさようならした日 何も書けなかった ただ 白い日記とにらめっこ 旅のはじめに 日記を書いた 旅の終わりに そして白い日記に微笑もう もう思い出せない あなたの微笑みと 流さなかったわたしの涙と 失いゆくわたしのすべての 記憶がしみついた 白い日記に微笑もう
青空を持っていこう 心の中に 青空だけは持っていこう たとえ地獄に堕ちても いつもどこでも 思い出せるように あのまぶしさを すきとおった青さを 青空だけは持っていこう 曼珠沙華
もうすっかり古びた そのあばら家の屋根にも ほこりがたまって 曇った窓ガラスにも 太陽のひかりは射し込み 朝は訪れ 何の関係もない人たちが 通りをかけてゆく 時より近所の野良猫が 冷やかしにやって来たり どこからか風に運ばれた 花びらや落葉が 休息を得るように 殺風景な庭に降り立つ 錆びた井戸はもう 役目を終えた、という顔で しずかにたたずみ あるじを失くした 犬小屋もそのまま なにもかもそのまま あの頃の そのままのまんまで ただ時だけが すべてを失ってゆき 今は
世界中が 動く歩道ならいいのに そしたら何処へでも 楽に行けるのに 何言ってんの それってリアルじゃん だって地球は 回転しているんだから 今もわたしたちは回っている ただ何も感じないだけ 地球が動く歩道なら 道理でいつまでたっても きみに 追い付けないわけだ 道理で いつになっても きみには、辿り着けない