菊池寛作品と落語の親和性
春風亭小朝師匠の本、『菊池寛が落語になる日』を読みました。非常に興味深い内容です。これ、菊池寛先生の小説が9つ、それを基にして小朝師匠が創作された落語が9つ、計18本が収録されてるんですね。それぞれの落語台本にはマクラも付いています。最後に小朝師匠と浅田次郎さんの対談もあります。かなりのボリュームです。そしてどれもこれも大変に面白い。
菊池寛先生は私の地元の出身です。銅像も記念館もあります。郷土の偉人です。たくさんの作品を遺されています。しかし、今でも広く読まれているかというと、決してそういうわけではないのですよね。パッと思いつく漱石・鴎外・芥川・太宰・川端・三島などの文豪と比べれば、地味な印象です。
しかし私は言いたい。菊池寛先生の作品は、先に挙げた小説家のどの作品よりも圧倒的に読みやすい。とてもわかりやすいのです。描こうとしているテーマが明瞭で、短くまとまっているものが多く、親しみやすい。反面、プロレタリア文学のように社会を変えようとするエネルギーや、純文学のように人間という存在の深淵に迫るような重厚さには欠けるかもしれません。
でも私は菊池寛作品が好きです。「すぐわかる」ことはとても大事だと思うからです。わかって、楽しんで、作家と読者、あるいは読者と読者ですぐに共有できること。たとえ通俗的だと言われようとも、まずは面白いこと・誰にでもわかることが一番ではないだろうか。そんなふうに思うのです。
それって落語にも通じるものがないだろうか?
こういった菊池寛作品の魅力に気付いた小朝師匠は、本当に流石であると思います。同時に、落語という形で再生していただいて、地元の人間として嬉しい気持ちで一杯です。小朝師匠、ありがとうございます。『藤十郎の恋 』の落語化、頑張ってください!
この機会なので、私のお勧め菊池寛作品も記しておきます。
『屋上の狂人』
戯曲もたくさん書いておられる菊池寛先生。『父帰る』も勿論良いのですが、ユーモアと優しさに満ちたこちらも名作です。
『仇討禁止令』
背負ってしまった業とどう向き合うかというテーマは『恩讐の彼方に』が非常に有名ですが、こちらも負けていません。
『世評』
もう、そのまんま落語のような作品です。普遍的で面白い!
どれも短く、青空文庫でも読めます。ぜひご一読を。