見出し画像

『時うどん』とうどん県うどん事情

誰もが知ってる『時うどん』。関東では『時そば』ですが、まさに落語の代名詞のような存在。初めて実際に聴いたのは繁昌亭で桂よね吉さんの口演だったと思います。マクラから大笑いしました。永久不滅の定番ネタですよね。

私の在住地は香川県なので、もちろんうどんは大好きです。落語ネタとしての『時うどん』も大好きです。ただ…『時うどん』の世界がうどん県こと香川に馴染み深いかというと、そこはちょっと違うと思うんですよね。

なにしろ香川県人、うどん食ってる時、喋らない。

そしてめちゃくちゃ食うのが早い。

これは私が県外出身者で、客観的な視点を持ってるから言えることです。とにかくうどん屋に行くとパッと食ってサッと帰るんです。多分、そんなに味わってもいない。息をするようにうどん食ってすぐ帰るんです。立ち食い感覚かというと、それもまた違う。

根がせっかちなのでしょうきっと。セルフ方式という独自の文化が定着しているのも、コストパフォーマンスと同時に、早く食って早く帰る食堂としての機能がより多くの人に求められた結果のように思います。なので他県からの観光客のように、美味しい店を巡るような習慣も基本的にありません。

早い・安い・近いが正義。

そんな土地柄なので、『時うどん』の面白味の一つである「しゃべくりながらうどんを大いに美味そうに味わう」という所作に、あまりリアリティを感じません。もちろん落語ですし江戸時代の屋台なので現代とは別物ですが、他県人と比較しても「黙ってうどん食う率」と「うどん食うスピード」に関しては抜きん出ているはずなのです。

思えば『恐るべきさぬきうどん』という研究本が30年ほど前に出版されその後の讃岐うどんブームを巻き起こしたのも、香川県人自身にうどん文化がそれほどディープである自覚がなく、ただパッと食ってサッと帰るものだったからではないでしょうか。麺通団・田尾和俊団長らは、その「凄さ」を言語化してレポートしたことがコロンブス並に偉大だったのです。

いつの日か、こういった独特のさぬきうどん文化を反映させた一席を完成させ、『目黒のさんま』や『池田の猪買い』のような「地元では特にバカウケ」をさらってみたいものだと思っております。

問題は…。

黙って食って帰るだけで、どやって笑かすねん?