
【五分落語】光る犬へ
茶虎「銀次さん、こんにちは」
銀次「おお、茶虎か。まあ、屋根へお上がり」
茶虎「よっこらしょっと、ぴょん。銀次さん、あんたは町内一の物知り猫って言われてますよね」
銀次「ああそうだな。お前さんは町内一の馬鹿猫と言わてるけどな」
茶虎「そんなに褒められると照れますね」
銀次「褒めてないよ。わしに何か用があるのかい?」
茶虎「いえね、今日は銀次さんでも知らないことを教えてあげようって思ってやって来たんスよ」
銀次「ほう、お前が知っててわしが知らないこと、そんなことあるのかね」
茶虎「あります、あります。おいらね、昨日の夜、見ちまったんですよ。いいですか、驚いてひっくり返って屋根から落ちねえでくださいよ」
銀次「落ちやしないよ何だ一体」
茶虎「あのね、最近の犬ってね、光るんですよお!」
銀次「ああ、そう」
茶虎「薄っ!リアクション薄っ!びっくりするくらい薄っ!」
銀次「お前が屋根から落ちそうではないか」
茶虎「いやいや、だって光るんですよ!犬が!あいつら進化すごくないですか!?もう神の使いですよ!神犬ですよ神犬!しーんけん!神!」
銀次「シンケン、シンケンって、福武書店かお前は」
茶虎「それもうベネッセになってずいぶん経ちますよ。ネタが古すぎて誰もわかりませんよ」
銀次「うるさいよ。今どき光ってる犬なんざ珍しくとも何ともないよ」
茶虎「いやいや、七色に光るんですよ?点滅しながら。もう、なんかこう、ガチャだったら間違いなく確定演出ですよ」
銀次「何のための演出なんだそれは。あのな、あれは犬自身じゃなくて、付けてる首輪が光ってるんだよ」
茶虎「えっ首輪?犬の全身がエレクトリカルしてるんじゃなくて?」
銀次「当たり前だろう。ピカチュウだってそんな派手な光り方しないよ。犬の飼い主の間でああいう首輪が流行っておるのだ」
茶虎「へぇ~。いいなあ。おいらもそれ付けて光りてえなあ…」
銀次「首輪なんぞ不自由なものは猫族が付けるものではない。そもそも我々だって夜目が光ってるじゃあないか」
茶虎「わたし、まだ独身猫でわからねえんですが」
銀次「そうじゃあないよ、嫁さんがいちいち光ってたまるか。夜になると暗闇でも見えるように我々は目が輝くだろう。あれのことだ」
茶虎「あ~あ、あれですかい。けど目だけ光っても格好良くないでしょう」
銀次「そんなことはないぞ。こう、月明かりを浴びて、怪しく緑色に光る。なあ、ミステリアスで格好いいだろう」
茶虎「銀次さんレオタード着て美術品とか盗みに行くんですか?」
銀次「行かないよ。とにかく光る首輪なんてものは我々猫族には必要のないものだ」
茶虎「じゃあ人間は何の目的で犬を光らせるんですか?私の発光力は53万です…とかマウント取り合ってるんですかね?」
銀次「そうじゃなくて、あれは犬が夜に散歩する時に光って目立つことによってだな、事故に遭わないようにするのが本来の目的なんだよ」
茶虎「あ、そうだったんですかい。けど、犬の散歩ってのはそんなに危ないなものなんですかい?」
銀次「そりゃそうだ。あいつら歩けばすぐに棒に当たる」
(終)
【青乃家の一言】
2025年の猫の日企画で書いた噺です。光る犬ですが、スタンダード・プードルっていうんですかね?めっちゃデカい犬2匹がキラキラしながら闊歩してるのを見たことがあります。飼い主より全然身分が上に見えました。
