虫ケラみたいにママと叫んで死んでゆく

通常、残像は透明または影または空気の揺らぎや歪みとして認められる。すなわち透明の場合にはまず認識されない。だから彼女たちは、自らや自らの仲間がポロポロこぼした感情の球の残像を平然と踏みつけている。

古川日出男「ノン+フィクション」


自宅療養82日目。2:50起床。連日の睡眠トラブルでこんな時間に。今日も植物の朝露が足にポタる。いっそ軽井沢とかに行ってしまおうかと思う。もしくは鎌倉の森の中。やはり身を賭して経験しないとわからないことがある。体が元気なうちはとにかく動いてみたい。極々、個人的な小さな欲。社会にインパクトなんて与えない、飛んで霞んで塵のような。

早く起きてしまったので、捨てる予定のデスクを解体する。面白い。転勤で来たこの部屋で、さて頑張るぞと息巻いてデスクを買って一年半。当初の目標は達したけど様々あり会社を辞めることになった。そうしたら途端にこのデスクが憎くなった。汗水ときどき血。そんな努力の結晶も全てがおじゃんになって。

そして3日連続でハンズに行く。とにかく買ってしまおう。失敗ならそれでいい。ダイソー別業態のスタンダードプロダクツの700円の木箱にハンズで買った180cmの板を乗せて、本棚と物置きにする。細かなレイアウトはこれから考えるとして、とりあえず納得できる感じになる。あと一段付け足してもいい。ワンルームなので限界はあるが、少しでも心地よく、自分の好きで埋めていきたい。

大人には大人の役割があるが、一周どころか二周回った人生においては、厨二病の設定で行くこれからは。前向きな退行。コンロ一つの自炊も、工夫して美味しいものを作って、何も持たない自分へ帰る。

炎天下の中、木箱と板を抱えて、片足を引きづって歩く土曜日。予想だにしない人生の一コマだけど、面白いからOKにする。選挙行こうぜのスタンディングをしてるオッさんと女の子。リュックの量ポケットには折りたたみ傘とペットボトル。心の中でエールを贈る。

買ったばかりだから贔屓目もあるのだろうが、やはり丸テーブルはいいな。視点を変えようと椅子を移動したときに、どの位置でも着地できる。テーブルを中心にして自分が回遊する。視線の移動。自転と公転。

空を切り裂いて君がやってきてしっかりしろと言う。そんな歌がスピーカーから流れてくる。ああ、美しいな。小さな部屋から宇宙に接続されるのはアルコールのせいもあるだろうか。酔うと自分が大切にしてることばかりに意識がいって、それに対する思いが増幅する。孤独のワンシーンだけど、なぜか豊かで、満たされている。人生の肌理をなぞる瞬間。

お酒の勢いを借りて音楽に埋没する。純度の高い感動しかない。誰にも脅かされず、自分の興味と好意をあからさまに享受する。リクオから山口洋、そのままソウルフラワーユニオンへとタスキをつなぐ。鮮血滲む大地の歌を。のどかな光、さわやかな風、ああ極東戦線異常無しって感じやね。この惑星じゃ、今も子供らが、ああ虫ケラみたいにママ!と叫んで死んでゆく。

選挙期間もラスト。ここにきて有力な候補者のマイナスな情報がいくつか飛び出してくる。それに反するように、AIテクノロジーを前面に出して、誹謗中傷から距離を置き、未来だけを語る候補者の支持表明が増えてくる。誰がいくら得票するのか、本気で楽しみにしている。220.170.150.70.50と予想してみる。誰がどこに入るだろうか。それとも全く違う結果になるだろうか。夜を楽しみに待つことにしよう。



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