バーチャルディーヴァは仮想の蛙の夢をみるか?~AZKi 4th LiVE 『REPEAT THiS LiFE WiTH U』所感~
2019年12月29日、池袋harevutaiにてVirtualDIVA AZKiの4th LiVE 『REPEAT THiS LiFE WiTH U(AZ輪廻)』が開催された。
2018年11月15日、バーチャルアイドルときのそらを擁するカバー株式会社より音楽特化Vアーティストとしてデビューした彼女は、真っ先に「オリジナル楽曲8ヶ月連続リリース」企画を打ち出し、その後2019年5月19日には秋葉原エンタス(以下エンタス)にて『The Shitest Start(クソAZ)』を開催。以降エンタスを主要活動拠点とし、3回のワンマンライブをはじめとして様々な音楽活動を展開してきた。
まさに止まることを知らない勢いで開拓を続けてきたAZKiのひとつの集大成、開拓の境界線となるイベントがこのAZ輪廻である。そう、バーチャルの世界にとって激動の2019年から、2020年という未開拓の地へ踏み出すための重要かつ歴史的なライブがそこにはあった。
開幕。壮大な音楽と、開拓者たちの手拍子に迎えられAZKiが姿を表す。1曲目は「コトノハ」。色鮮やかな映像と軽快なロックミュージック、そして開拓者たちの声が、このライブのロケットスタートを彩る。そのままの勢いで「虹を駆け抜けて」へ続き、同じく爽やかなロックで会場を染め上げる。そして3曲目の「ひかりのまち」で会場のボルテージは最高潮に達する。3曲連続のロック曲を披露しAZKiも会場も飛ばしたあとにMCが入り小休憩となる。AZKiが水を飲んだ際の「700円!!!」「え?今日600円でしょ?」の掛け合いも実に和やかで、AZKiがいかにリラックスしてステージに立っているかが感じさせられた。「今日AZKiのライブ初めての人!!」という問いかけに対して後ろを振り向くと数十人以上の人が手を挙げており、AZKiが切り拓いてきた世界の広がりを感じさせられた。
そしてここからはまるでおしゃれなクラブで掛かっていそうなナンバーが続く。「Reflection」はバーチャルシーンにおいて有名なTEMPLIMEのKABOSNIKKI氏が作詞作曲を担当している。観客は手拍子や腕を振り上げて思い思いにそのリズムに乗り、歓声が湧き上がっていた。続いて披露されたのはハム氏が作詞作曲を手掛けた「Starry Regrets」。こちらは先程の軽快でポップな音楽とはうってかわってしっとりと、情緒的なピアノの旋律とAZKiの震えるような歌声によって会場の全ての心は引き込まれ、ただただ聴き入っていた。そしてBatsu氏が作詞作曲を担当したダンスミュージック調の「MidnightSongs」が続く。この曲はPVに実写が使われており、大衆的な雰囲気を感じさせられる。そしてそのゆったりとしたリズムに観客も思わず「dance、dance、dance、wowwow…!」と口ずさんでいた。
2回目のMCタイムでは同日開催されていた冬コミのブースと、そこで披露されたホロライブ「ノンストップ・ストーリー」のアイドル衣装について触れた。AZKiの衣装は他のメンバーと対象的に黒と赤が基調とされており、ホロライブの先鋒を務めるときのそらの白と青と丁度反対の色となっており、彼女らが結成するユニット、SorAZのコラボが楽しみになった。
続いて7曲目には1stpioneerチケットの特典CDに収録される新曲「猫ならばいける」が披露された。ポップキュートでロックなこの楽曲で会場の開拓者はこの時だけは可愛らしい(?)猫と化した。個人的にはこの楽曲の合いの手の声を誰が担当しているのかが気になるところである。特典CDを聴き込んだ感じ複数人かつ聞き覚えのあるような声が含まれているようだが…
8曲目に披露されたのは、なんとときのそらの楽曲「フレーフレーLOVE」であった。そもそもAZKiの楽曲自体が多いのもあって、ここでAZKi以外のアーティストの楽曲が入ること自体が完全に想定外だった。私自身も「聞き覚えのあるイントロだけどなんだろうこれ…?」くらいの勢いで混乱していた。そして非常に個人的な話、私はそらとも(ときのそらを推す人たちの名称)でもあるため、それを理解した瞬間頭をぶん殴られたような衝撃とともに涙が溢れてきた。そして、続いて9曲目に続くのは「ShinySmilyStory」。ホロライブというグループを知っている人ならば知らない人は居ないであろう彼女たちのグループ全体曲である。「フレーフレーLOVE」でサプライズは終わったと思っていた私は最前列で膝から崩れ落ちた。それでもコールを完璧にこなす開拓者たち、というかVのファンたちは流石である。彼らが網羅できていないVの楽曲が果たしてあるのだろうか…。どちらかというとアンダーグラウンドな印象のあるAZKiからアイドルを感じさせられたこの瞬間を私は忘れられない。そして来たるべき1月24日のホロライブとしての全体ライブが更に楽しみになった。これがホロライブだ。これがAZKiだ。
3回目のMCではREALITYの同時視聴者数が2,000人を超えたことが告げられた。同日は別のライブイベントも開催されており、その上でこれだけの人数がAZKiのライブを観に来てくれている。開拓者としてもとても嬉しい瞬間だった。
10曲目は同じく新曲の「Eternity Bright」。平成のオタクには懐かしいメロディラインの楽曲である。夜の高速道路で聴きたくなるどこか幻想的で未来的な音楽だ。
ここで4回目のMCが挟まる。「Vtuber業界」、楽しいことだけじゃなく、辛いこと、悲しいことも沢山起きた。その中で「AZKiという存在は何なんだろう」「本当の自分とは何なんだろう」「自分は誰かの書いた脚本通りに動いているだけの人形なんだろうか」「Vtuberは人格なのか職業なのか」「AZKiはこのAZKiで、他には居ません!」「このAZKiでなくなったときは、AZKiのいのちが終わる時だ。だからこそこの一瞬を大切にしたい」と彼女は自問自答します。
そして新曲「光」が披露される。幻想的で神々しいこの曲は、歌詞の意味が分からなくともその曲の持つ意図が伝わってくる感覚を覚えた。12曲目にはさめのぽき氏が作詞・作曲・編曲を務める「世界は巡り、やがて君のものになる」が続く。この楽曲は表題にもある通り、まさにある種の“輪廻”を象徴させるような楽曲だと私は思う。AZKiの旅が終わる時、AZKiは世界そのものになるのかもしれないとすら感じさせられる。そして13曲目に連なるのは「いのち」。直前のMCの内容もあってかこの組み合わせはずるい。しかもアコースティックバージョンだ。MVもYouTubeに公開されているものに手を加えてあって、また憎らしい。AZKi自身の歌も明らかに感情の乗せ方がパワーアップしている。本当に泣いているのではないかとすら感じさせられる。本当に心の中からの叫びを感じた。私はAZKiの楽曲の中でこの「いのち」が最も好きだ。だからこそ「この楽曲が披露されたら自分の涙腺はまずい」と心構えをしていたのだが、幸い致命傷で済んだようだ。
5回目のMC、次に来るであろう楽曲のコールの確認をされる。「今日は何曜日?」『日曜日!!』「何しよっか?」『AZ輪廻!!』「今日どこいこっか??」『harevutai!!』完璧である。14曲目として「のんびりと、」が披露された。明るくキュートなメロディで会場の空気は一気に後半戦へと転換した。そのままの勢いで「リアルメランコリー」が続く。気付けばAZKiの衣装は初めて彼女を見た時のものへと変化していた。
ラストスパート。盛り上がっていく事を確認された開拓者たち。いよいよAZKiBLaCKの真髄が披露される。「自己アレルギー」。「声上げていけよ!!」に対して「オッオー!!オッオー!!」と返す開拓者たち。手拍子。会場のテンションはMAXに達する。AZKiの「行くぞッ!!」の掛け声とともに「嘘嘘嘘嘘」が続く。同じくロックテイストな楽曲だ。開拓者たちは腕を振り上げ盛り上がりをアピールする。その盛り上がりに呼応するかのように畳み掛けるBLaCKの楽曲。17曲目はAZKiのライブでは欠かせないあの楽曲。「Fake.Fake.Fake.」は観客が肩を組んだり激しくコールするシーンが用意された楽曲だ。まさに場内が一体となって限界まで盛り上がることが出来るだろう。
最後のMC。#行こうぜAZ輪廻、#見ようぜAZ輪廻でライブまでの期間を盛り上げてくれたことへの感謝、そして5月に行われたクソAZの150人から、今回の500人規模の会場でライブを出来ることへの感謝の言葉が述べられた。
併せてAZKiOfficialWebsiteのオープン告知、及び3月22日に対バン企画「LAST V STANDiNG vol.2」の開催が宣言された。なお対バン相手は「エルセとさめのぽき」である。
ラスト2曲と宣言され「from A to Z」が流れる。この楽曲はコーラスを開拓者たちが担当する楽曲である。ここまでの時間で一体となった会場の開拓者たちの声。そしてAZKiの歌声が重なりあって、ひとつの楽曲となる。この空間が私には堪らなく愛おしい。
最後の曲は「ちいさな心が決めたこと」。最後に相応しい楽曲は他にも沢山ある仲で敢えてこの楽曲を選んだ事に私は強いメッセージ性を感じた。「それでも、いや、それだからこそ、ここで生きていくと決めたんだ」と―。
アンコールは「AZKi」コールで行われた。
何故か段々速くなるAZKiコールに思わず「早い早い…!」という声も飛び交う。AZKiのアンコールへの強い期待を感じさせられる。
そうして始まったアンコール、まずは先日発売されたアルバムでも表題曲となっている「without U」。3rdライブ「レペゼンエンタス」で初披露されたこの楽曲の文字による映像演出も圧倒的にパワーアップしていた。歌声と映像と会場の熱気という力。全てが重なり合って「without U」が形作られていた。
AZKiはバーチャルだけどここに居るんだ!という言葉は、AZKi自身を奮い立たせる言葉であるとともに、開拓者に力をくれる言葉であった。
全体での記念写真を挟み、アンコール2曲目の「フロンティアローカス」は開拓者への感謝の気持ちとして贈られた。「開拓(者)の軌跡」と銘打たれ、アルバム「without U」の最後を飾るこの楽曲は1stライブ「クソAZ」から、あるいは今日初めて「AZ輪廻」に訪れた開拓者、そしてREALITYの配信を見ている開拓者、それどころかこの先で出会う開拓者に向けて歌われているメッセージだ。「ここまでの軌跡も、これから辿り着く未来もこの世界にある」と。
ここで告知としてAZKi OFFiCiAL FANBOX「FRONTLiNE」の開設が発表された。このFANBOXではAZKiのこれからの活動を運営のみが主導するのではなく、ファンである開拓者もこれからのAZKiを作り上げていって欲しいという意図が込められているという。
そしてAZKiから、開拓者への手紙と、サプライズでツラニミズ氏への手紙が読まれた。AZKiがデビューした2018年11月15日、私は今でも覚えている。もうひとりの推しであるときのそら、彼女が一期生デビューの際に言っていた「ドジでダメな先輩だけど、自分が居ない時でも後輩のことをよろしくお願いします」という言葉。これだけのために私は当時デビューしたばかりで「Just be friends」を投稿していたAZKiもとりあえず見てみようとTwitterでリプライを投げかけた。「ホロライブを推している者です。これからよろしくお願いします!」今考えるととんでもない挨拶だと思う。もっと気の利いた言葉はなかったのだろうか。それでも、あの時あの瞬間からAZKiを見ていて心底良かったと思う。
「一年も経ったら消えてしまうんじゃないか」と思ったこともあると語るAZKi。それでも沢山の人の輪が重なって、この日の晴れ舞台に繋がって来た。「これからも歌を、音楽を作っていきたい。一緒に開拓してくれますか?」という言葉は深く心に刻み込まれた。
そしてツラニミズ氏への手紙。AZKiが読み上げた通り彼は口が悪く、人から嫌われやすい性格をしていると思うが、本当に演者と、音楽のことを純粋に考えていて、AZKiの誕生日の時に言っていた「自分が1番目の開拓者で、最後まで開拓者であり続ける」という言葉は自分も強く印象に残っている。そしてこの日読み上げられたAZKiの「だってこんなに開拓者の人がついてきてくれてます。沢山のエンジニアやスタッフさんも沢山います。これって本当に凄いことだと思う。絶対起こせないだろうって思う奇跡みたいなことを、これからも起こしていけるんだって…そう思います。」他人のことなのにこれほど涙したことはそうは無いと感じる。それほどにAZKiとAZKiチーム、彼女たちを取り囲む人たちの輪の暖かさを感じた瞬間だった。
長いようで短かったAZ輪廻も終わりを迎える。最後はもちろんAZKiの始まりの曲、「CreatingWorld」。今回も「一緒に歌ってください」と振りを頂いたので喜び勇んで合唱してきた。AZKiと、開拓者を象徴するこの曲がある意味AZKiと開拓者の成長も感じさせてくれる。そして、この先に待っている希望を示してくれる。まさにAZKiの輪廻の新たな始まりを示してくれる一曲だろう。
<セットリスト>
1.Overture
2.コトノハ
3.虹を駆け抜けて
4.ひかりのまち
5.Reflection
6.Starry Regrets
7.Midnight Song
8.猫ならばいける (new)
9.フレーフレーLOVE (cover)
10.Shiny Smily Story
11.Eternity Bright (new)
12.光 (new)
13.世界は巡り、やがて君のものになる
14.いのち Acoustic ver
15.のんびりと、
16.リアルメランコリー
17.自己アレルギー
18.嘘嘘嘘嘘
19.Fake.Fake.Fake
20.from A to Z
21.ちいさな心が決めたこと
●アンコール
1.without U
2.フロンティアローカス
3.Creating world
最後には意味深なメッセージとともにAZKi5thライブの開催が発表された。
ひとまずは1月24日、ホロライブ全体のライブイベントであるノンストップ・ストーリーが迫っているが、それから先もAZKiはとまらないホロライブを先陣を切って魅せてくれるのだろう。これからの彼女と開拓者の軌跡もますます楽しみだ。
さて、折角表題にも使ったので「アンドロイドは電気羊の夢をみるか?」という作品はご存知だろうか。あまりにも有名すぎる作品だ。(もしかしたら大分過去の作品なので知らない人もいるかも知れないが…)感情をも機械で制御した人間と、人間と見違うほど精巧で、まるで心を持っているかのようなアンドロイド。果たしてどちらが“生きている”と言えるのだろうか。という問いを投げかける作品だ。この物語の中にはルーバ・ラフトというオペラ歌手が登場し、その歌声で人々の心を揺さぶる。しかし、彼女もまたアンドロイドだったのだ。
バーチャルアーティストは、メタな話をするとアンドロイドとはまた少し勝手が違うのかもしれない。しかし彼女たちもまた、“生きている”。その彼女たちが紡ぐ音楽もまた、“生きている”。そしてその生きた音楽に流れを与えることができるのが、我々ライブへの参加者なのだと思う。そう、単なる観客なのではなく、一つの作品を作り上げる重要なファクターなのだ。そんな作品のいのちの象徴たる“輪廻”の形がこのAZ輪廻の中で表現されていたと言っても過言ではない。どれかひとつでも欠けると成り立たないもの。それが彼女のライブにはあると、確かにそう感じさせられたのだ。そんな彼女は今どんな未来を夢見ているのだろうか。その先を私も見てみたい。
AZKiとは
「AZKi(あずき)」はカバー株式会社の運営するバーチャルタレント事務所「ホロライブ」に所属するバーチャルアーティスト・バーチャルYouTuber(以下Vtuber)である。
2018年11月より活動を開始し、YouTubeにおいては「歌ってみた」や自身のオリジナル楽曲動画の投稿、生放送や他のアーティスト、Vtuberとのコラボ企画などの活動をしている。
また、デビュー直後に「オリジナル楽曲8ヶ月連続リリース」企画を打ち出し、2019年8月ですべての楽曲が配信済みである。
ファンの呼称である「開拓者」の通り、開拓と称してAR・VR技術を活用した現実世界でのライブイベントも精力的に参加・開催しており、バーチャル・リアル問わずアーティストやVtuberをゲストに招きトークを行う「AZラジ(あずらじ)」(同年12月25日で最終回)など様々な新しい取り組みも行ってきた。
同年11月12日に自身初となる全国流通1stフルアルバム「without U」を発売した。また同年12月29日には池袋harevutaiにて4thライブ「REPEAT THiS LiFE WiTH U (AZ輪廻)」が開催され、大盛況のうちに幕を下ろした。なお、2020年1月5日にAZKiYouTubeチャンネルにてAZ輪廻再放送が行われるほか、同ライブのアーカイブに関しては後述の公式FANBOX『FRONTLiNE』会員向けに近日公開される予定である。
Twitter : https://twitter.com/AZKi_VDiVA
YouTube : https://www.youtube.com/channel/UC0TXe_LYZ4scaW2XMyi5_kw
OfficialWebsite : http://azki-official.com/
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