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小説-「ずっと、好き」

 その日は、ふいに訪れた。

 叔母のお見舞いに行った帰り、病院の玄関に向かっていたロビーで。

 向かいの通路から、白髪の混じった頭の背の高い男性が歩いてくる。少し弱々しそうな、飄々と歩く様はあの頃と同じ。急速に周りが見えなくなる。彼から目が離せない。

「かずくん。」
「まなちゃん。」

「すっごい久しぶり。」
「元気にしてた?」

私の問いに彼は答えず、困ったような今にも泣き出しそうな顔で、クシャっと目尻を下げ微笑んだ。
彼が
「少し時間ある?」
って聞いてきたので、
「うん。」
っと言って、彼の後ろ姿について行った。

 バス停に向かう途中の、今は寂れた人気のない公園。所々に生えている雑草は枯れはて、色が無い。土は白くて冷たく、二人のサク、サク、歩く音だけが聞えてくる。途中石ころに躓く私に、
「大丈夫?」
彼が弱々しそうな優しい眼差しで、微笑みながら声をかけてくる。
朽ちかけて所々ささくれだっているような、乾燥した、元は焦げ茶色だったろうベンチに座る。
 
 二人の間にはあまりにも長い年月があり、話したいこと、聞きたいこと、沢山あり過ぎて、何も言えない。

「寒いね。」

前を向いている彼が、チャコールグレーのコートの襟を立てて体をぶるっと震わせて声を発する。

「うん。寒いね。」

「はぁ~っ。」

二人とも、口元を手で覆い、息を吐き出す。

空を見上げると、顔に冷たいものが、落ちてくる。

灰雪がひらひらと舞い降りてきて、この世界にはまるで二人しかいないかのように、色を失くす。空に吸い込まれていきそうだ。


とても静かだ。

続く

#忘れられない恋物語 ,小説


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