「まだ間に合う!今から健康診断対策」に会社不正の危うさを見る
結論から言えば、この会社は不正から立ち直れない。ある日、社内の電光掲示板に表題の通りのスライドショーが表示されていた。健康保険組合か、安全労働衛生グループが作成したものであろう。
健康診断とは、端的に言えば会社から見れば従業員を疾病から遠ざけ、健康保険料の支払いを削減し、働いてもらうためにある。特に夜勤がある会社にとって、従業員の健康は、人材・財政面の両面で重要な意味を持つ。不健康な従業員は、やがてその病気を治療するために会社の健康保険料が使われ、入院や通院などで現場にも穴が空く。健康を損なった社員は、労災のリスクも高いのだ。
そのため、会社は定期的に健康診断を行うことで、社員の身体的リスクを予防するのだ。虫歯にならないように、毎日食後に歯を磨きましょうというのと同じである。病気が発症する前段階で手が打てれば、金銭的・時間的な消費は最小限に抑えられる。
ということで、従業員の健康というのは、個々の従業員の日常生活における地続きの先にあるもので、まるで抜き打ち試験のように診断が行われるのが望ましいし、これが純粋な健康を診断するものだ。
ゆえに、健康診断「対策」というのは本質的に間違っている。従業員の持つ疾病やその前兆を隠してしまい、より大きなリスクを抱えることになる。
健康診断の対策という行為自体は、本人の自由意志のもとで行うのは勝手であるが、私がここで問題にしているのは「雇用側…いわゆる会社側がこれを推奨しているかのような公示をしている点」である。
多くの人は、「公示だなんて大げさな」「どこかの部署の一社員が作った、社内向けのスライドでしょう」と思ってしまうだろう。
しかし、ここに大きな問題があることにお気づきだろうか?一社員が作った、ただのスライドであったとしても、それをチェックする上司の存在はどうなのか?そもそもチェックしていないのだろうか。ただのスライドということで、放任しているのか。
いずれにせよ、冒頭で取り上げたスライドが社内向けに出ている時点で危険信号である。会社は、個々の従業員の思想、認識、行動の総体である(なので会社そのもの、は存在しない)。つまり、これはスライドを作成した社員個人の問題ではない。その社員を教育していた先輩や上司が同じような考えを持っていたり、職場の雰囲気自体が「対策」意識になっている恐れがある。氷山の一角だろう。
社員が本質的に間違ったことをしている、という自覚がない上に、それを指摘するチェックシステムも機能していない。たかが健康診断だが、会社に対して行われるあらゆる試験もまた、それに対しての対策というのはありえない。
対策というのは、この場合でいうところの「質の良くないものをよく見せようとする小手先の誤魔化し」を言う。まさにこの会社が直近で犯した、不正事案と同じではないか。
組織としての、アクセルとブレーキ、良いことと悪いことの区別、そういった価値判断が、理性が、暴走しているのだ。
会社の不正も、はじめは…個人単位の、たった一人の、小さなきっかけだったであろう。そのスタートが、この一枚のスライドから端を発しているという結果につながらないことを願っている。
この会社は、不正から立ち直ろうとしているが、道半ば以前の話である。数年後に存続しているのだろうか?
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