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たまには全速前進_博論日記(2023/09/03)

2024年2月1日予定の口頭試問まで、あと148日。

今日もバイトを終えて研究室にやってきた。快晴。朝夕はぐっと涼しくなったが、日が出るとまだ暑い。バス停から研究室までの10分ほどの道のりを遠く感じる。リュックから帽子を取り出した。

このところ月の満ち欠けに無頓着になっていたのだが、書籍プロジェクトでお世話になった占い師さんから久しぶりにご連絡をいただいて、そのメッセージに「8月31日はブルームーン(暦月の2番目の満月)なので、ぜひ月を眺めてみてください。お願いごともいかがですか」とあった。今日のトップ画は、ピンボケしているがお月見写真である。しっかり投稿論文完成と博論完成、就職先決定にその他もろもろ、なんだかたくさんお願いしてしまった。

さて、今週はタイトルの通り全速前進した。真っ向から投稿論文と向き合って作業を進め、やっとのことで投稿まであともう一歩という地点に辿り着いた。今、4人の共著者の先生方に最終内容確認をしていただいているところで、全員からOKがきたら投稿できる。長かった。

お盆に合わせて起き出してから、早25日。ここまで調子を崩すことなく、いや、それどころか研究に全速前進できたのは、お盆明けからチューターさんについていただいたからだ。「博士課程の院生で博士論文書こうとしている人がチューターつけるの?(自分でマネジメントできなきゃこの先ないよ)」と思いつつも、あまりにも切羽詰まっているので、恥も外聞も捨ててお願いすることにした。
院生生活が長引いていることからくる鬱々とした感情でものごとを考える部分の70%を埋めてしまっている、というようなことを以前書いた。こと困難な問題が発生するとその割合が膨れ上がり、自分との対話がまともにできなくなるのだが、チューターさんがついてくれることによって冷静さを保てている。対話相手が自分ではなく他者だからだろう。大変ありがたい。
この先チューターさんにずっとついていていただくわけにはいかないことはわかっている。でも、とにかく今は甘える。博論審査に必要な2本の論文、とにかく受理まで持っていこう。

というわけで、ずっと作業をしていたため今週は散歩に出ることができていない。なので今日はお散歩報告の代わりに、後輩から教えてもらってとてもテンションの上がったニュースを共有できたらと思う。

一昨日、お弁当を共用テーブルで食べていたら、後輩がまぜそば用のお湯を用意しながら「そういえば先輩、超巨大な海生哺乳類の化石が見つかったってニュース、ちょっと前から流れてますけど、見ました?」と声をかけてくれた。私にはまったく心当たりがなく、彼女に詳細を尋ねると「イラストは覚えているんですけど読めてなくて…」とのこと(彼女は魚研究者)。麺を湯がく彼女の傍、スマホでニュースサイトを検索して内容を読み上げる。なかなか衝撃的な内容にお互い「なんなんそれ!」だとか「怖い、会いたくない!」とかてんで勝手につっこみ合い、大いに盛り上がった。
ニュースの概略は以下の通りである。

先月2日、欧州の古生物学者チームによる"A heavyweight early whale pushes the boundaries of vertebrate morphology"(脊椎動物の形態の限界を拡張する初期の重量級クジラ: 筆者訳 )という論文が、Nature誌に掲載された。
ここで「初期の重量級クジラ 」と表現されているのは、ペルーで発見された始新世中期(約3900万年前)のバシロサウルス類クジラであるペルケトゥス・コロッサス(Perucetus colossus: ペルーの巨大クジラの意)。
どれくらい大きいかというと、なんと、体長20メートル重さは最大340トンと推定され、地球の歴史上、最も重い動物だった可能性がある(ちなみにシロナガスクジラのギネス記録は190トン)。脊椎骨一つだけでも、200キロ近い重量があった。
この研究は、「クジラは今から1000万年前ごろに巨大化した」とする従来の学説を覆した。

下記のニュースサイトを参考に筆者まとめ
CNN  https://www.cnn.co.jp/fringe/35207392.html 
時事ドットコム  https://www.jiji.com/jc/article?k=20230803044803a&g=afp
NHK
  https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230803/k10014151511000.html
沿岸部に生息する「ペルケトゥス・コロッサス」を描いた再現図
/ 英ネイチャー・パブリッシング・グループ提供

ニュースのトップ画に用いられたこの再現図が、後輩の記憶には強く残ったらしい。「顔、細長!」「えっでもこの顔、私たちの胴体ぐらいの大きさあるってことよね」「ワンピースの海王類やん!」「ん?前ヒレに指ある?水かき?」「足っぽいのあるよ〜ちっちゃ!」「クジラ の尾びれというよりマナティっぽいから海牛類かと思った〜!鯨か!」「当時の地球は今より暖かかったから餌生物(底生生物)多かったって」「どれくらいの量を食べて、どれくらいの期間でこのサイズに成長するの」「謎〜!!」などなど。
約3,900万年前なんてまったくイメージできないが、ただこんな巨大な生物がいるということで、「いやあ、ものすんごい時代だったんだなあ」と朗らかに驚嘆しながら昼休憩を終えた。

話は変わるが、古代生物というと、私の推しはデスモスチルスである。束柱目という不思議な分類群に属していて、そのチャームポイントは歯である(束柱目という名の由来となった)。

デスモスチルスの再現図(北海道大学総合博物館にて撮影)
デスモスチルスの特異な形をした臼歯 (写真 甲能直樹氏)

写真からわかるように、柱を束にしてまとめたような歯をしている(歯については甲能直樹氏「デスモスチルスは歯が命 - 束ねた柱の秘密-」が詳しい)。
長鼻目(ゾウなど)、海牛目(ジュゴンやマナティ)、岩狸目(ハイラックス)などに近縁とされていて、私の好きな動物たちが集まっていることからデスモスチルスへ興味が広がった。

では、ペルケトゥス・コロッサスとデスモスチルスは出会うことがあったのだろうか。
調べてみると、デスモスチルスは1800~1300万年前の生き物で、約3900万年前にいたとされるペルケトゥス・コロッサスより2,000万年も新しい生き物だということがわかった。

現生哺乳類の系統図(甲野 2013を元に筆者作成)。青色マーカーが水生適応した系統。

これらの話題、私たちが生きている「暮らし」のレベルとあまりに差があるような気がするが、暮らしを営む私たちの身体にはペルケトゥス・コロッサスやデスモスチルスと繋がるものが維持されている(細胞はもちろん、脊椎を持っていることも同じ)。
私たちがどこからやってきたのかという「来し方」のレベルにもいろいろある。民俗学のレベルもあれば、この系統図のレベルもある。どこまでもどこまでもズームアウトしていくような感覚を覚えた。

自分の論文と関係ないようでいて、きっとどこかで繋がっている。

<To Do>
・投稿論文:1本目・2本目(ともに共著者最終チェック(9月5日まで)。9月7日には投稿。
・分担書籍原稿:第1稿チェック終了、14日に提出(30日締め切り)

・システマティック・レビュー:一次チェック作業終了 / 二次チェック作業用フォーマット作成
・博論本文:執筆(現状:43,175字)
・研究会発表原稿作成:アウトラインに情報を載せていく。


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