Novelber/04:恋しい
人恋しくならないのかとアレクシアは言った。
「こんな場所でずっとひとりなのだろう? 人恋しい日もあるんじゃないのかい、叔父さま?」
正確には常に誰かの目に晒されてはいるのだけれど、実質「ひとり」であるのは間違いない。私に必要以外の言葉を投げかける者は一人もいないのだから。
しかし、私はアレクシアの言葉に頷くことも首を横に振ることもないまま、曖昧に笑うことしかできなかった。不思議そうな顔をする我が姪に、何と言えば伝わるだろうと思いながら、言葉を選ぶ。
「人恋しい……、という言葉がよくわからないんだ。人前に出ることは多かったけれど、誰かと共にいる、という実感が乏しかったのだと思う」
結果として今も昔とそう変わらない。取り巻きの目が、刑務官の目になった、ただそれだけの話。そこに人並みの温度が備わっていないのは当たり前で、当たり前であるから人恋しいと感じる理由もない。
アレクシアは、澄み切った青い目で私を見据えて、よく通る声で言う。
「それでも。寂しいと思うことはあるんじゃないのかい?」
「……そうだね」
そう、……この感覚を本当に「人恋しさ」や「寂しさ」と表現していいものかどうか、まだ、私にはわからないままであったけれど。それでも、直截に私の懐に踏み込んできたアレクシアに敬意を表して。言葉を、紡ぐ。
「時折思い出すよ。昔のこと。友とともに在ったこと。私にとって、それは確かにかけがえのない記憶で……、もう二度と戻らないということを、惜しく思っている」
かつて、私は友に向かって手を伸ばしていた。たった一人の友であり、今でもなおそうであり続けている彼のことを思う。
「けれど、二度と戻らないように振舞ったのは私自身だ」
私は、私自身が選んだ道の結果、ここにいる。罪や罰とは別に、それが私の歩んできた道の結果であると、はっきり言い切ることができる。
だから。
「故に、惜しく思えど、これ以上を望みはしないさ」
虚勢でも強がりでもなく、そう思っている。
すると、アレクシアは微かに赤く色づいた頬を膨らませて、いつになく不機嫌そうな声で言う。
「叔父さまは難儀だな」
「そうかな」
「素直に『恋しい』『寂しい』と言えばいいのさ。言うことはタダだろうに」
「なるほど」
そういう考え方もあるのか。どうにも、私は通常の感覚からずれてしまっているようだ。
しかし、そう。己の胸に問いかけてみて、返ってきた答えはきっと、更にアレクシアの想定からずれているのだろうなと思いつつ。
「君が語りかけてくれるから、寂しくないよ、アレクシア」
私にとって、友以外に語りかけてくれる人など、ほとんどいなかった。だから、今の私に思うことがあるとすれば、それこそ目の前にいる姪のことで。
アレクシアはきょとんと目を丸くして、それから不思議と頬の赤みを更に濃くして。
「叔父さまは本当に難儀だな」
そんなことを、呟くのであった。
(『雨の塔』の囚人とその姪の面会)