Novelber/06:当日券
気づけば、目の前に見知らぬ光景が広がっていた。
霧の中に浮かぶのは、色とりどりの霧払いの灯に照らされた巨大な門で、その向こう側は霧に霞んで見えないが、いやに明るい場所であるということだけはわかる。ほとんど光の塊にしか見えないそれが何なのかわからないまま、私はぼんやりと門の前に立ちつくしていた。
「お客様、チケットはお持ちですか?」
不意に声をかけられて視線をやると、今時劇場でしか見ないような、派手かつ古風な服に身を包んだ人物がこちらに向かって手を差し伸べていた。服装ははっきりと見えるのに、不思議なことに顔立ちは霧がかかったかのように曖昧で、声も男のものなのか女のものなのか判然としなかった。
それにしても、チケットなど持っているはずもなかったから、首を横に振る。手に取ることが許されているのは、それこそ誰かの目を通した後の手紙くらいで……。そう、そもそも私がこんな見知らぬ場所にいること自体何かがおかしいのだ、と気づくのと同時に霧のような人物が「おや」と声を上げた。
「当日券をお持ちではないですか」
その言葉に、私はほとんど反射的に自分の手元に視線を向けていた。
確かに、その人物の言うとおり、私の手は何かを握っていて……、恐る恐る手を開いてみれば、風船を手にした一人の少女の影を描いたチケットが握られていた。
次の瞬間、ひょい、と私の手からチケットを取り上げられたかと思うと、忽然と私のそばにいたはずの人物は姿を消していた。代わりに、音もなく門が開き……、途端に、色とりどりの光と賑やかな音の洪水が溢れ出してきた。
呆然とする私の耳に、音の中でもよく通る声が、響く。
「ようこそ、『夢幻遊園地』へ。一夜の夢を、お楽しみください」
(夢幻遊園地)
あざらしの餌がすこしだけ豪華になります。