Twitter300字SS「服」
気づけば冬はもうそこまでやってきていた。
すずめはダッフルコートをクローゼットから引っ張り出して、鏡の前で羽織ってみる。少しばかり大きい気もするけれど、来年、再来年と着るならこのくらいがちょうどいい。
そして忘れてはいけない、とベッドの上でうたた寝していたウェールを持ち上げて、首に巻いてみる。軽くてふわふわな毛並みのウェールはとてもあたたかく、かわいらしい色味もあいまって素敵なマフラーに見える。
マフラーもとい魔法つかいのウェールは、大きな目をぱちぱちさせて首を傾げる。
「どこかに行くのかい、すずめ?」
「うん。あとりちゃんとお買い物!」
にっこり笑って、すずめはウェールと一緒に街へと出かけるのだ。
――『寒い日のお出かけ』
ウェールは魔法つかいだけれども、人間の世界でできることは多くない。力を人間に委ねることで、初めて魔法が形になるのだ。
だから、ウェールはすずめにこう伝える。
「最高の自分をイメージするんだ」
魔法は心の力。最高のイメージは最高の魔法に繋がる。
「空に描くは七色の虹、イリス・アルクス!」
すずめが秘密の名前を紡げば、ウェールはすずめ――魔法つかいイリスの衣装へと早変わり。すずめのイメージする「最高の自分」は、少しだけ大人びた少女。長い髪をリボンで縛り上げ、裾の広がったドレスからは虹色の光が散る。
『よく似合っているよ、イリス』
ウェールはイリスの心の中に微笑みかける。
さあ、今日の「お仕事」を始めよう。
――『最高のイメージ』
あざらしの餌がすこしだけ豪華になります。