送信履歴#2 いくばくかの後悔をしています。
「じゃあ、また」
別れ際手を振ってくれた君の手のひらが、風に揺れる折り紙細工みたいに見えてしかたがありませんでした。折り紙は郷愁で鮮明で、そして確かな手応えとして--そこに間違いなくあったんだよと--ぼくにその存在をアピールするのです。そしてその手は次第に小さくなっていきました。それから花火が終わるみたいに消えた。その最後の瞬間が繰り返し思い出されてしかたがありません。
鮮明で強烈に現れては、粒子がひと粒ずつ離れていって、薄く小さくなって消えていく、のリフレイン。
君は君の家路につき、ぼくはぼくの家に向かった。現在のぼくと君との物理距離おおよそ15キロ。
では、精神距離はどれほど離れているのだろう?
考え始めたら、定めきらずに揺れている自分に気づきました。
あの高台で物理的にもっとも接近したのはおそらく10センチを切っていたでしょう。君の肌のぬくもりが、凪の空気を伝ってぼくに届いていたことをありありと思い出すことができます。でもその熱を感じた瞬間を頂点に、ぼくはどんどん坂道を下っているような思いでいます。
どうしてあの時、手を伸ばして君の手を取らなかったのだろう。
直感は「この人」と囁いていたのに。
小さな勇気は、あの時に現れてはくれませんでした。
ところが、今ごろになって、それは。
あとになって湧き出す後悔はいくらでも可能性を広げるのに、大事な時にそれはナリを潜めていました。
でも、失敗したこと、悔しく思ったことは、優柔不断で移り気な気持ちをとらえる投網だったことに気づいたよ。そして、後悔が繰り返され堆積すると、決意の土台になることも。
ぼくの決意。
応えるのは君の覚悟だ。
小さな覚悟でいい。
精神距離を縮めるべきベクトル上にある君の覚悟。
君は応えてくれるだろうか。
それとも、ぼくの楽観的な期待値に、君は愛想笑いで肩をすかすのだろうか。
続く。
(続く)