送信履歴#8 最悪を念頭に置いて最善を尽くす!

だいじょうぶだったみたい。
しばらくしたらスマホは元に戻ったよ(でも最近不調の頻度は上がっている)。
心配してくれてありがとう。

あのあと、また送信者不在の文字化けメールが届いていた。グーグル翻訳を通したら[漏れだしてしまったんだ]と記されていたんだ。
どういうことなんだろう?
ウィルスチェックに引っかからないから実害はなさそうだし、悪気のない悪戯のような気もするし、不思議だ。
悪戯メールの送信者、しばらくしたら本性をむき出してきたりして。
そう仮定すると、日常がドラマのサスペンスみたいに思えてくる。メールを送った影の黒幕(重複構文だ)、その腹に隠した混ざり気のない暗黒から欺きの触手を伸ばし狙いを定めて餌食にする。フィッシングかオレオレか、食い物にされる被害者は騙し取られて初めて事実に気づく、とかね。
前々から、ぼくにはその手のメールがなぜ来ないんだろうと疑問に思っていたんだけど、考えてみればスパムメールはサーバーではじくように設定していたことをさっき思い出して納得。

日常は期待に反して割と平穏に過ぎていく。

君も早く安心して働けるようになればいいのだけれど、ぼくのアドバイスも水泡に帰す、そんなアクシデントが起こってしまったことに、ぼくは混乱し力不足の自分が情けなくも思う。まさかこれほど事態が急いているとは思わなかったよ。
もしかしたら彼女、追い詰められているのかもしれないね。自分を追いつめている、という可能性もある。その理由はいくつか考えられるよね。

その1、自分のキャリアアップのスケジュールが遅れている。
--どんな目標を立てているのかわからないけど。
その2、急がなければならない原因が彼女の周囲にある。
--たとえば親御さんの面倒を見るのに、もう少しお金が必要になったとか。入院費、治療費を勘案すると、今のお給料では足りない、だから昇格して手取りを増やす、とか?
その3、性格的なもの。

どれだろう?
選択にはもちろん「その4、その他」も入れておかなければならないか。いずれにしても、対応しなければならない。

「様子を見てみよう」は撤回。
「観察と調査」に舵を取り直す。
仕事とは別次元の難事は、本来君が抱えるべきことではないかもしれないけれど、部長が君をクッションとしての役割を担わせているのだとしたら、やるだけのことはやってみなきゃ。
協力する。
雨は故意に降らせてでも、固めるつもりで動く! だって、君も、おそらく彼女もだけど、本心では気持ちよく共に仕事をしていくことを望んでいるはずだ。
こんな心配、杞憂に終わる可能性もあるけれど、だとしたらそれがいちばん。でも、最悪を念頭に置いて最善を尽くすことは重要だよ。
だいじょうぶ。辛くて煩わしくても、そんな状況はいつまでも続かない。意思を強固に保っていたって疲れてしまう。息切れするよ、きっと。
その時がチャンスのような気がする。

あのね、ぼくが子どものころは、主張と主張がぶつかりあって、お互いに譲り合わないから取っ組み合いになったりしていた。でも、取っ組み合ってへとへとになると、お互いに主張していたことがどうでもよくなちゃうんだよね。
「何が原因でけんかになったんだっけ?」って、あまりに些細なことにこだわりすぎていたっていたことに気づくわけ。
で、仲直り。
そうやって相手を認めると、安心できる間柄になる。

君も?
おそらくイエス。

今は、仲直りするためのぶつかりあいも「やっちゃいけない」ということになっている。さも他人が決めた規則みたいに装って、その実、うまいこと誘導しようとしている。何か問題が起こったときに、責任を負いたくないからこういう責任者不在の構造がまかり通っちゃうんだろうね。
鉄道は「ホームに噛み終えたガムを捨ててはいけないことになっております」って、自分たちが決めたルールをさも他人がそうしなさいと言ったから、というふうを装って責任を回避しながらルールを押しつけようとする。
これが積みあがるとどんなことが起こるか。
「決められたルールだからそれに従わないとイケナイ」社会。誰が決めたかなんてわからない。責任者は不在だ。でも黙って従う。
これって怖くない?
文句をつけたくても、誰も受け付けてくれない構造がそう誘導しようとしているんだ。
やるかたない憤懣を抱く人が現れても、それをぶつける先が存在しなかったら、(みんなが従うから)仕方なく従うことになる。
本当にそれがよく生きるということだろうか?
社会は効率化だの働き方改革だのと言っているけど、僕には心の成長が追いついていないような気がしてならない。心が育たなければ、カタチだけが大きくふくらんでいく。人の集まる器が立派になっても、その中の精神が育たないとぼくたちは囚われていくようになる。
何にって、それは“従うだけの者”に。
気づかれずに、潜在意識にしつこく黙々と植えつけていかれるの。

ぼくは、いやだ。
君は?
いやでしょう、そんなの。

正直に話すとね、部下の彼女、そうした流れに陥っている社会の構造に惑わされた被害者なんじゃないかって思っている。彼女だけじゃない。ほかにもたくさんいる。ぼくのまわりにも、テレビを観ていても。あ、ここにもいるって、ぼくは思う。惑わされているなって思う人は、思っていた以上に増えている。

だから本当は救ってあげればいいのになって思っている。
それができるのは、きっと君しかいない。
解決すれば、そのあとに残るのは、余計な心配事に惑わされない快適な仕事環境だ。
もうひと息で苦境から脱するよ、間違いなく。
だから今しばらくの辛抱を。

繰り返すけど、今は「観察と調査」だ。
そして、必要な衝突(必要最小限のね)。
具体的には?
それは君も心得ているはず。
必要なら、ぼくからも提案させてもらう。

そして乗り切った暁にはご褒美ね。
温泉は、ぼくが連れていく!
その代わり、お楽しみは蓋を開けてからのお楽しみということで。
温泉選びは任せて!

(続く)


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青村 音音(アオムラ ネオン)
この道に“才”があるかどうかのバロメーターだと意を決し。ご判断いただければ幸いです。さて…。