送信履歴♭3 もう始まっている
「もう始まっている。現れ始めた」と緑の小さな人が予感する。
「もう始まっている。現れ始めた」と赤の小さな人が思う。
「もう始まっている。現れ始めた」と青が続く。
「もう始まっている。現れ始めた」と黄色い小さな人が思い浮かべたことをタイピングし始めた。
「もう始まっている。現れ始めた」といつも無口な紫が口をもごもごさせている。
でも、何が始まっているのかはわからない、と5人の小さな人が共有する。
新しく現れた月には、よく見ると丘のような突起があった。
「あれって何だったんだろうね」と黄色の小さな人がみんなに尋ねた。5人そろって4つ目の月を観察した時に認めたそれまでとの相違点。
ほかの月はつるんとしたまん丸だった。蝶よ花よと荒波も苦労も知らずに大事に大事に育てられ、そっと箱にしまわれていたみたいに無垢で素直なつるんとしたまん丸だった。だけど4つ目の月だけは少しほかの先住月とは違っていた。遠目では同じように見えるのに、よく見るとおできのようでいて、おちょぼ口にも見える突起がある。
今では星屑のかけらがぶつかったクレーターまで背負い込んでいるのよ!
「クレーターは関係ないでしょう」と黄色い小さな人が、緑の小さな人の憤怒を込めた苛立ちの声にしなかった叫びに茶々を入れた。
確かにクレーターは、おできのような突起とは成り立ちが違う。
おできは自発的で、クレーターは被害者的に成立していたからだ。
そうだそうだとみんなが“混同してはいけない”という意見に同意する。言い出した黄色い小さな人も戸惑うことなくさりげなくみんなに「そうよね」と賛同する。
--違うと決めつけてしまうのは早計じゃないのか?--
いつも無口な紫の小さな人が強く念じると、ほかの4人に紫の人が思ったことが伝わった。
「どういうことだ?」と青い巨漢の小さな人がその巨漢を乗り出して訊いた。
--タイピストの記録マシンがまた苛立し気な唸りをあげようとしている--
紫の小さな人が念じると、みんながいっせいに黄色の小さな人が操っている記録マシンに目をやった。そのとたん、記録マシンはジジと軽い目眩のようなショートする音を短く発し、そのあとぶ〜んという、あの不気味な地響きのような声をあげ始めた。
「あっ」
赤い小さな人が声をあげた。箱の取り出し口が一瞬光ったのを、赤い人の目の端がとらえたからだ。もしかしたら目の錯覚だったかもしれない。
ならばよけいに真偽を確かめなくてはならない。
「ちょいと見てくる」、そう言って赤い小さな人はぽっかり空いた取り出し口まで俊足で移り、そこから無限宙を見上げて4つ目の月に焦点を合わせた。
ほかの4人が、赤い小さな人の言葉を待った。だが言葉をもらう前に、赤い小さな人の慄きを聞くことになる。
あわわわ。
「なにごとだ?」
4人が取り出し口に駆け寄り赤い人の視線の先を追う。そこにあったのは、盛り上がった丘の突端から勢いよく吹き出す青い炎だった。
(続く)