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父の気まぐれ門松

子どもの頃我が家では、正月に立派な一対の門松を玄関に飾っていた。

すっぱりと斜めに切られた太い三本の竹が、堂々と正面を向いて鎮座。高さは小学2年生のわたしが見上げる程に大きかったと記憶している。

そんな立派な門松は、父の手製であった。
田舎だったので、竹は近くの山から調達していた。
父は会社勤めだったが、無いものは買わないでつくれば良いという精神のひとで、家のあちこちにDIYの痕跡があった。

門松の習慣はいつしかなくなってしまったけれど、今でも実家で過ごした正月は堂々とした門松と共に思い出される。



先日帰省し、両親にこの門松の話をした。
そうしたら母が言った。

「ああ、一回だけね。しかもそれ段ボールで作ったのよ」

なんですと。


当時の写真を見せてくれた。
立派な三本の竹こそ記憶通りながらも、その竹が刺さっている胴体部分にはぐるりと巻かれたダンボール。そこに松の枝を詰め込み、しめ縄飾りにみかんをくくりつけ、ギリギリ門松の体を成した物体がそこに在った。

門松(のようなもの)を飾ったのは後にも先にもこの一度きりだったらしい。


とんだ記憶違い。

幼かったわたしにとって父がつくった大きな門松は、実家で過ごした正月の全てを司る程に立派な存在だったのだろう。


以来、我が家の誇るべき正月の記憶は、「父の気まぐれ門松」という居酒屋メニューみたいなタイトルで上書き保存してある。

おわり

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