『俺の道』収録曲感想〜後編〜
個別感想の後編です。
※重要なネタバレを含みます。未聴の方はご注意ください。
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「ラスト・ゲーム」
アコースティックギターがもう最高にかっこよくて持っていかれるけど、宮本さんの歌い方もこの曲にすごく合っているから、音と歌と両方に引っ張られて揺らぎながら聴いています。わたしは宮本さんの弾き語りが好きなので、ミドルテンポで、この、ちょっと“軽み“のある感じがすごく好みです。そして、メロディと歌詞がカチッと合致して気持ちいい。(な・がいかふうのように〜で “な“ に強いアクセントがあってから緩やかに流れていく感じとか)もしかしたらデモに近い状態、割と作ったそのままに近い曲なんじゃないか、と思ってしまいます。“目の前の怠惰にじゃれている俺“ という表現が個人的に好きです。
「覚醒(オマエに言った)」
始まりの宮本さんの伸びやかな声がほんとうに心地いい。この曲はバンド音と歌がすごく調和していて分かち難く結びついている感じ。後半に向けて段々高揚していく音と、いつもの振り絞るような叫び声が合わさってなんとも言えない切なさとか、胸がぎゅっと苦しくなる感情を呼び起こす。この音はまた、覚醒していくさまを表しているようにも感じます。こういう、歌と音によって訴えかけてくる感情表現が凄すぎて打ち震えます。そして、わたしはやはりこの “オマエ“ はもう一人のオレ(宮本さん自身)に思えます。“オレ“ も “オマエ“ もカタカナ表記にすることで対照的な意味合いを感じます。オマエに語りかけることでオレ自身が覚醒していく、というような。
「ろくでなし」
アルバムを購入するきっかけになった曲。歌詞もメロディも音も声も “ろくでなし“ という言葉の肌触りも全部が好き。“ろくでなし“ という言葉を音や声で表現したらこの曲になるのではないか、と思う。退廃的な音、アンニュイな声。一曲全ての宮本さんの歌い方・声音がすごく好きなので、この曲を聴くとへなへな〜となります。歌とコーラス部分の掛け合いがもう切ない。そして例に漏れずギターリフが超絶かっこいい上に、こんなに効果的にタンバリンを使う例を知りません。
「オレの中の宇宙」
映像が浮かびます。感情がバシバシ伝わってきてざわざわします。“ツナワタリで食べていた“ “部屋が揺れている〜ヘッドホンをしてロックを聴いていた“ というところは情景ではあるんだけど、そのまま心の不安定さも現していて。前にも書いたけれど、比喩表現が素晴らしくて、こういう心理描写がほんと短編小説か短編映画を見ているかのよう(例えば「地元の朝」なども顕著ですよね)。ものがたり力と言えばいいのか。すごい宇宙。すごい表現力です。
「ロック屋(五月雨東京)」
生命賛歌から始まったこの『俺の道』という物語の最後。エフェクトのかかったふわりと捉えどころのないような音。傷つき、油汗をかきながら踊る現状でたどり着いた答えが “ロック屋“。この言葉をまるで自分に言い聞かせるように繰り返し叫ぶ。嫌だなと思ったら立ち向かえ、オノレの道を行けと結論づけながらも、五月雨模様のままアウトロがフェイドアウトして物語はまだ続いてゆくことを想起させる。歌は力強い決意で終わっているけれど、反響する音が(心の?この先の?)不安定さを感じさせます。さらにこの後空白があることで読後感というか心がざわついたままこの感情の余韻は続いていきます。これもタンバリンがすごく効いてます。
「心の生贄」
いつも第一声にドキッとさせられます。何回聴いても慣れません。前曲の余韻に耽っているときに、その思考を引き裂くようなパッーンと弾ける真っ直ぐな声。明るい曲調。俺の道を辿ってきてロック屋という結論に達したけれど、またそこから“さらばオレに還ろう“と歌っている。螺旋階段のようにぐるぐると回りながら上へ登っていくイメージ。歌詞カードはないのですが “還ろう“ という字がしっくりきました。わたしはこの曲に「四月の風」と同じ “におい“ を感じます。
一旦、個別感想を終わります。
このアルバムをじっくり聴いて文章にまとめていくうちに改めて宮本さんが自分のココロの奥に深く入り込んで内観している作品群だなということを感じました。だから今後もちょっと加筆修正することがあるかも知れません。
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