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バレットジャーナルと『モレスキン活用術』

 今回は、『「箇条書き手帳」でうまくいく はじめてのバレットジャーナル』を読んでみました。「普通のノートに、構わずどんどん書く」という、一見乱暴なこの手帳の手法について、似たほかの方法と比べながら見てみましょう。

1.バレットジャーナルの概要
バレットジャーナルは簡単に言うと、A6程度の大きさの普通の罫線のノートに、何でも時系列で(日付をつけて)箇条書きにしていく手帳の書き方です。文頭に打った点「・」=弾丸 からbulletと呼ばれています。

この書き方は、以前から何度か女性の著者が書いた手帳本の中で目にしていました。どうやら提唱している人も、実際に活用している人も、女性が多いようです。

この本にあるような、内容で分類せずに一冊のノートに時間順で書く方法は、十年くらい前に流行った『情報は1冊のノートにまとめなさい』(ダイヤモンド社 2013)、『100円ノート「超」メモ術』(東洋経済新報社 2009)等でも言われています。

2.似た方法の『モレスキン「伝説のノート」活用術』
以前、私がこの方法で良いイメージを持ったのは、『モレスキン「伝説のノート」活用術』(ダイヤモンド社 2010)です。この本には「記録・発想・個性を刺激する75の使い方」という副題がついています。

モレスキンはイタリアのモレスキン社が作っている黒い表紙のノートで、過去には「芸術家が使っていた」等の伝説的な話があり、一部に熱狂的なマニアがいます。その用紙は特別なものではなく、それぞれ単純な横罫や方眼や無地です。ただの紙だからこそ、自由な発想で使い方を考える楽しさがあるのでしょう。そして古びた色の用紙と、使用感が味となる装丁が、愛着を育む絶妙な条件になっているのだと思います。

この本で提唱されている方法です。

(1)書く
まずはモレスキンを使って、断片的な気づきや思考をいつでも書きとめ、とらえます。この本では、それを「ユビキタス・キャプチャー」と呼んでいます。

(2)振り返り
そしてその後、(本の中では「お楽しみ」と言われていますが)、それらの断片的なメモを見直し、振り返る時間を毎日持ちます。
単語を膨らませ、気づき、タグ付けをして検索性を上げ、カテゴリーでリンクさせます。このプロセスによって、新しいものを生み出していくことを目指しています。

(3)時系列の書き方の問題点 検索性と閲覧性
時系列の書き方には、必ずの検索性と閲覧性の難しさが生じます。その問題の解決のやり方が、それぞれの手法の見どころなのだと思います。

■モレスキン活用術の検索性と閲覧性の解決策
モレスキンでは、これをタグ付けで解決しようとしています。メモした言葉を膨らませた文章の記述のページの上に、題名と複数のキーワードをつけ加えます。キーワードは主にカテゴリーと、内容を端的に表す言葉です。そして、インデックスページにこの記事の題名とタグを追記します。

(4)モレスキン活用術の面白さ
これにより記事の検索性が上がると同時に、後に記事を俯瞰する際に、記事どうしがリンクして、新しい気づきや発想を生むというシステムになっています。書いた記事の見直しの過程で、KJ法のようなリンキングを行うようなイメージです。

新しい気付きを生む発想は新鮮で、確かに楽しい作業です。面白くて、私もしばらくやっていた時期があります。手帳で気づき、生み出したい私には、このやり方が合っていたのだと思います。

私が続けられなかった理由は、一日の終わりに振り返りの時間を取れないことでした。自宅でプライベートなリラックスした時間に、仕事を含めた振り返りの時間を持つのが、気持ち的に難しかったのです。これは、手帳の使い方とは別の課題として、また改めて考えたいと思います。

3.バレットジャーナルの手法
元の話に戻ります。バレットジャーナルの記述方法です。それは次のようなやり方です。

(1)インデックス
最初のページにインデックスのページをつくります。これは、他の方法も同じです。併せて、ページ番号を振ります。これにより、情報は番地を持つようになります。

(2)箇条書きの工夫
バレットジャーナルの一番の工夫は、行頭の記号にあります。
「・(タスク作成)」に、「>(先送り)、<(スケジュール落とし込み済み)、×(完了)」等を上から重ね書きします。

これにより、タスクの進捗の変化を表せます。チェックボックス☑はよく見かけますが、時間経過を重ね書きできるのは面白い発想です。オリジナルの記号を考えれば、さらにバージョンアップできそうです。

また、バレットジャーナルには、その事項の性質を示す記号「〇(イベント)、—(メモ)、*(アイデア)、★(重要)、♡(love)」等の記号があります。これにより閲覧性を上げる工夫がされています。

(3)バレットジャーナルの意図
バレットジャーナルが意図するのは、時系列で書くことにより、書く行為に制限がかからないことだといいます。また空欄がなくなることで充実感を上げようとしています。

これにより、定型業務が多い職種でよく言われる「手帳に書くことがない」という課題に対応できる特徴があります。また、大量の細かいタスクを処理していく主婦や主夫の、「日によって量に差がある上に、細かいタスクはスケジューラーに書ききれない」という課題にも対応できる書き方と言えます。

一方、これだけであれば、ただの記号付きの箇条書きメモノートにすぎません。その先を読み進めたところ、次のようなことがわかりました。

(4)デイリーログの箇条書き
実はこの方法のポイントは「箇条書き」にあるのではないのかと思います。モレスキンでは、「文章」として書くことを勧められていましたが、バレットジャーナルの情報の単位は、「箇条書きの一文」です。

箇条書きは「デイリー・ログ」という形で書き連ねられていきます。これが時系列の書き方です。なんでも一つの場所に書くことで、書くことが習慣化されやすい特徴があります。

(5)コレクション
そして実は、このノートには、時系列のページとは別に、「コレクション」と呼ばれるページを自由に作成するようになっているのです。

コレクションは、フューチャー・ログ(将来のなりたい自分を書くページ)、家計簿や資産リスト、体調管理チェック表、ハッピー・リスト、ポイント制のタスクリスト、一連のタスク・グループ、本の記録、学習記録、ストレス・コーピングのためのやることリスト、アドレス帳、持ち物リスト、ルーティンの外せるようにしたページ等、自由な発想で作ることが提案されています。

(6)ユニークな「収納」作業
そしてバレットジャーナルにも、モレスキン活用術と同じように、メモを深化させる作業があります。

箇条書きのデイリー・ログを、記号にもとづいてコレクションリストに収納して、空にしていくのです。これは次のような意味を持つと考えられます。

■膨らます
転記の際に意味の検証(必要に応じたタスク分解)が行われます。また、その振り返り時間を必ず毎日、毎月末に持つことで、気づき、膨らみ、生み出すと考えられます。

■長期展望を意識し毎日をすり合わせる
遂行されなかった、または「収納」されなかったデイリー・ログは翌日に転記されます。その際には、ただ前日のタスクを転記するのではなく、長期の見通しを見渡しながらタスクを落とし込む作業が含まれています。常に長期的な展望や計画を思い浮かべるのが、単なるタスク処理と違う点です。また、目指す何かのために毎日行う事項がある場合には、別に習慣リストを作成するようになっています。

■アイデアを流さないでストック情報にする
アイデアは書くことで意識されますが、そのまま流さずに、いずれかのリストに落とし込む仕組みになっています。
デイリー・ログはフロー情報(長期的に振り返る際に気づきを生む意味を持つもの)であって、実は積み上げて生み出すストック情報としての機能は、コレクションの方にあるのではないでしょうか。

■前進感、達成感を生む
自分が好きなことと関連付けて、自分だけのフォーマットで組み立てていきます。これにより、計画的に何かに向かっている感じが生まれます。また、自らのプランA・Bを叶える仕掛けにもなります。
その結果、手帳が、「子のママ」である以外の自分のあり方や時間を作り出す仕組みとして機能し、気づきや驚きや自信等を生むツールになっています。これが、定型業務を行う会社員や、主婦に人気がある理由なのだと思います。

(7)バレットジャーナルの弱点
■スケジュールを把握しにくい

バレットジャーナルの弱点は、スケジュールの把握がしにくいことでしょうか。そのため、この方式では、デイリーの他にマンスリーのページを設けています。この本の著者は、スマホ(ネット)上に、別に家族の予定を含めたスケジューラーを持ち、参照しながらデイリー・ログを書いていました。

■デイリー・ログがたくさん溜まる
デイリー・ログのノートが、年に4冊程度になります。量が増えると、持ち歩きが難しくなります。また、情報が複数のノートにわたって書かれるために、検索が難しくなります。バレットジャーナルでは、検索性を上げるためにEvernoteでスキャンし、手書き文字も検索できるようにする工夫をしています。

4.まとめ
今回紹介したモレスキン活用術やバレットジャーナルのほか、「一冊のノート」術に共通しているのは、①とにかく書く②閲覧性、検索性を上げること、のようです。

その上で、ただのスケジュール管理の手帳と異なる大切なポイントは、①振り返りの時間を持ち、意味を吟味することで、情報を生きたものに変える②情報を「私」がリンクすることで、私の中にある気づきを意識化する③私のありたい姿や存在価値を確かめること、のように思いました。

確かに、以前私がモレスキンの本を読んでやってみていた時期には、自分が何をしたいのかを考えて、日々の予定に組み込んでいました。また、好きなものを思い浮かべたり、新しい何かに気づき生み出すのは、新鮮でワクワクする作業でした。

何よりも、一日の終わりに作る、私と私の大切なものについて考える場は、自分をねぎらいいとおしむ、数少ない「私だけのための時間」になります。

手帳術の本には、「書き方」の向こう側に「私」というテーマが見えます。

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文:©青海 2020
書籍:
『「箇条書き手帳」でうまくいく
  はじめてのバレットジャーナル』
Marie著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2017

『モレスキン「伝説のノート」活用術』
ダイヤモンド社 2010

『情報は1冊のノートにまとめなさい』
ダイヤモンド社 2013

『100円ノート「超」メモ術』
東洋経済新報社 2009



   


読んでいただき、ありがとうございます!☺ かつての私のように途方に暮れている難病や心筋梗塞の人の道しるべになればと、書き始めました。 始めたら、闘病記のほかにも書きたいことがたくさん生まれてきました。 「マガジン」から入ると、テーマ別に読めます(ぜんぶ無料です)🍀