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掌編小説|流れ星|シロクマ文芸部

 流れ星の夜には百発百中なのだと、俯いていた妻が更に頭を垂れ、真剣に訴える。和室の中は、和モダンな間接照明がぼんやり灯っているのみで薄暗い。
 目の前には布団の上で正座をして身を縮めている妻の姿がある。彼女を傷つけないよう、俺は音を立てずに息を吐いた。
「今夜がそうだって? 例の占い師が?」
「あ、うん。そう、設楽したらさん。こないだ予約したの。そしたら、今日のこと告げられて……」
「告げられてって」
 どこまでプライベートなことを話してるんだ。
 女ってのは、付き合いが深くなるととどまるところを知らない。それが信頼の証だとでも思っているのだろうか。設楽にしたって、他人の性生活の話を聞いて適当なことを抜かせば金になるなんて。良い商売だ。

「どおりで。山嫌いのまいが、急にこんな不便な場所の宿を取るんだから、俺だって怪しまなかったわけじゃないよ」
 舞は下げていた頭を起こしたが、いまだ顔を上げない。
「だいたい、百発百中なんて言い方は占い師としておかしいんだよ。仮に俺がさ、100発? 舞に……あれしたとしてさ、それが100中しちゃったらどうすんの」
 少しの間があって、舞は片手を口元に当ててくすくすと笑った。
 浴衣を合わせてある胸元に僅かに隙が出来て、舞の下着の控えめな装飾が見えた。

「とりあえずさ、なんか……その占い師の話を聞いたから〝さあ始めましょう〟は俺には無理なんだよ」
 そう言った瞬間、舞は顔を上げ、俺の目を数秒見つめると、再び項垂れた。
 今、舞の目は俺に何を伝えたかったのだろう。
 怒り、失望、悲しみ。何かを強く訴えられた気がしたけれど、そこを問うつもりはない。いつだって一言余計か、一言足りなくて悪い結果を生んできた。

「本当に今日が流れ星を見られる日なら、見に行った方がいいんじゃないの?」
 そう言うと、舞が即座に「今から?」と訊いた。
「そう。問題ある?」
「ん、ないけど……もう二人とも飲んじゃったし」
「歩けばいいでしょ。なんもない場所だけど、なんもないからこそ、見えるんじゃない?」
 わかった、と言って立ち上がろうと足を崩した舞がよろめいた。
「痺れたんでしょ」
「痺れた」と舞が笑う。
 ちょっと待ってと言いながら、痺れている足を動かさないように身悶えている。
 浴衣の裾が大きく乱れ、舞の太ももの白さをフロアランプの灯りが照らした。

 細かく体を震わせて、やだ、どうしよう、と言いながら困ったように笑う舞に近づき、浴衣の裾をそっとめくった。
 笑っていた舞の顔から少しずつ笑顔が消えた。代わりに、どこか恥ずかしさのようなものを漂わせ、俺の目を覗き込む。

 ゆっくり、慎重に舞を仰向けに寝かせてやると、囁くように「足には触らないで」と言う。
「どのへん?」と聞くと「全部」と言った。

 真っ直ぐに伸ばされた舞の足先を見つめ、息を吹きかける。
「くすぐったい」と言って笑った。
 徐々に息をかける場所を変えながら、舞の体の中心に近づいていく。
 はだけていた浴衣を脱いだ。
 痺れていない方の舞の足を持ち上げて肩にかけると、滑らかな腿裏ももうらの吸い付くような感触を素肌の上に感じた。舞は片方の手の甲で顔を隠すようにして横を向いた。
「百発百中」
 俺が言うと、舞は横を向いたまま、またくすくすと笑った。

 いつの間にか痺れていた足が自由になった舞は、起き上がると俺の首に腕を回した。

「流れ星、見たかった?」
 キスの合間に訊ねると、舞は小さく首を振った。
「流れちゃ嫌だから。もう二度と」
 僅かに聞き取った。
 
 夫婦で共有した悲しみとは言え、人一倍寂しがり屋な舞の苦しんだ日々を思い出すのはつらい。
 閉じられた舞の瞼の端が濡れていることに気づき、より一層愛しさがわいた。
 いつぶりだろう。その華奢な体ごと、全てを欲しくなった。






 了


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青豆ノノ
チップとデールの違いを知りません。