毎週ショートショートnote| 勇者
何日目だろう。目隠しをされ、車でどこかへ運ばれている。猛烈な喉の乾きと空腹で、体に正常な感覚がない。続く振動で今にも内蔵を吐き出しそうだ。
いつの間にか気絶していたが、どこかへ着いたのか、突き飛ばされるように車から出された。
腕を掴まれ、引きづられるようにして歩く。
数メートル進んだところで、突然目隠しをとられた。
思わず手で顔を覆ったが、恐る恐る目を開けるも眩しくはない。今夜は満月だと知る。
腕を掴んでいた男が言った。
「お子様ランチは好きか」
男は目の前の暗闇を指さした。洞窟だ。
「ご褒美と言えばお子様ランチだろ。あの洞窟の奥に食い物がある。好きなだけ喰え」
男の笑い声が響く。
朦朧としながら、幼い頃に食べたお子様ランチや、母親に読んでもらった冒険の物語を思いだした。
勇者を思い浮かべた。力を振り絞り、這うように洞窟に入った。
得体の知れない何かが蠢き、耐え難い悪臭が鼻を突く。
それでも、吐き気を堪え、目の前のそれに手を伸ばした。
[完]
よろしくお願いします°・*:.。.☆