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ショートストーリー | ラムネの音 | シロクマ文芸部

 ラムネの音がしたら目を開けろと言われてから三日経っている。
 その間、どんなに耳を澄ませてもラムネの音を聞くことは出来なかった。
 僕の近くに、やけにゲップをする男がうろついているのはわかる。それから、おそらくこの近くを湘南新宿ラインが通っている。そして、近隣には小学生を含む家族が最低でも三組は住んでいて、たまに天井裏をネズミが走り、ムカデが這うようだ。だけど、肝心のラムネの音だけはどうしても聞くことが出来なかった。
 五日目、初日よりも弱々しくゲップをするようになった男に手をひかれ、静かな部屋に入った。
「ここは?」と訊くと、「スタジオだ」という。
「なぜここに来たの?」と訊くと、「集中してもらうためだ」という。
 それならと、僕はこのところ習慣になった〝耳を澄ます〟という行為に集中した。

 〝かさかさ〟違う。何かを取り出した音。
 〝コトッ〟これも違う。
 〝ふんっ〟男の声。
 〝ぷすっカラカラカラ〟ん? 
 〝ンゴッンゴ〟何かを飲んでいるようだ。

「ねえ、いま何を飲んだの? 僕も飲んでみたいんだけど」
 
 〝ガアアッ!〟男のゲップ。

 男が近づいてくる。僕の口元に滑らかな瓶の口を押し付けて「飲んで」と言った。
「ンゴッンゴ」
 僕は飲んだ。あゝうまい。ねえ、これは……
「なんていう飲み物…ガアアッ!」

「ラムネだよ」と男は言った。

僕は五日ぶりに目を開けた。そして、握っていた瓶の中で光る丸い玉を興味深く眺めた。





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