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コトラーだけじゃない『ブランディングの科学』を知ろう
この記事のサブ記事の位置付けです。
データ分析ではマーケティングについて扱うことが多いのにマーケティングについて理解している人は少ない。
そして学ぶとフィリップ・コトラーが主流ですが、データ分析の観点から言うとエビデンス重視のバイロン・シャープの方が親和性が高い。
なのでバイロン・シャープの主著をまとめましたよ。
概要&序章&第2章 市場浸透率
$${ブランドのシェア=ブランドの売上=購買客の数\times購買の頻度}$$
ですが、小さなブランドをどう育成していくか
重視
コトラー:(既存顧客の)ロイヤルティ
シャープ:市場浸透率(つまり新規顧客)
目標
コトラー:購買の頻度を上げる
シャープ:購買客の数を増やす
戦略
コトラー:STP、ターゲットマーケティング
シャープ:セイリエンス、洗練されたマスマーケティング
戦術
コトラー:差別化
シャープ:タッチポイントを増やす
考え方
コトラー
購買の頻度を上げてシェアを上げる。結果として購買客も増える
新規顧客獲得はコストが高いので既存顧客のロイヤルティを上げる
我らが王道
シャープ
購買客の数を増やしてシェアを上げる。結果として購買の頻度も上がる
市場シェアと市場浸透率は比例している ダブルジョパディの法則
ロイヤルティはシェアの結果なのでポジショニングなどはできない
我々にはエビデンスがある。コトラーの考えはデータの裏打ちが弱い
ロイヤルティ
そのブランドへの忠誠心(一般的な定義)
RFM, NPS, リピート率, LTVなどで指標化する
ダブルジョパディの法則
$$シェアが高い\iffロイヤルティが高い$$
(ブランド)セイリエンス
そのブランドが想起されること(一般的な定義)
市場浸透率
特定の期間に何人がそのブランドを少なくとも1回買ったかを記録する指数(『ブランディングの科学』)
市場シェアが小さいブランドの育て方
```mermaid
graph
シェアの小さいブランド --> c1 & s1
subgraph sharp[シャープの考え]
direction TB
s1["市場浸透率を上げれば<br/>購買客数が増える"] --> s2["セイリエンスで<br/>タッチポイントを増やす"] --> 購買客の数を増やす -->s4[ブランドのシェア向上] --> s5["ロイヤルティも増える"] --> 購買の頻度も上がる
end
subgraph cotler[従来のコトラーの考え]
direction TB
c1["ロイヤルティを高めれば<br/>購買の頻度が上がる"] --> c2["STP<br/>ニッチなポジショニング<br/>で差別化"] --> ロイヤルティを高める --> 購買の頻度を上げる --> c4[ブランドのシェア向上] --> 購買客の数も増える
end
```
マーケティングの優先事項
コトラー:シャープ
ポジショニング:セイリエンス
差別化:独自性
メッセージを理解させる:気づかせて感情的反応を引き出す
ユニーク・セリング・プロポジション:身近な関連性の構築
説得する:記憶構造を刷新/構築する
教える:届ける
視聴者の理性に訴える:視聴者の感情に訴える
11のマーケティングの法則
ダブルジョパディの法則 第2章
マーケットシェアが低いブランドは購買客数も少ない
リテンションダブルジョパディの法則 第3章
大きいブランドは多くの顧客を失うが、その損失は顧客基盤からすると少ない
パレートの法則(60/20) 第4章
ブランドの売上の半分強が上位20%の顧客からもたらされる(売上の80%とはならない)
購買行動適正化の法則 第4章
ある一定期間にヘビーバイヤーだった消費者の購買量はその後減少する
ライトバイヤーの購買料は増える
自然独占の法則 第7章
マーケットシェアが大きいブランドほど、多くのライトバイヤーを引きつける
顧客基盤が類似する 第5章
競合と自社ブランドの顧客基盤は類似している
ブランドに対する態度と思いが行動的ロイヤルティに反映される
使用しているブランドについては多くを語るが、使用しないブランドについては語らない
そのため、大きいブランドはロイヤルティの高いユーザーを多く含むのでスコアが高い
ブランド使用体験が消費者の態度に影響を与える 第5章
ブランドが異なっても購買客がブランドに対して示す態度と認識は非常に類似している
プロトタイプの法則 第8章
製品カテゴリーを的確に説明するイメージ属性は評価(ブランドとの関連性)が高い
購買重複の法則 第6章
ブランドの顧客基盤は、競合ブランドの顧客基盤と重複する
NBDディリクレ
第3章 既存顧客維持は低コストではない
(通説)「新規顧客1人を獲得するためには、既存顧客1人を維持するために必要な費用の5倍を要する」のか?
顧客離反率のダブルジョパディの法則
$$シェアが高い\iffロイヤルティが高い\iff顧客離反率が低い$$
シェアを変えることなしに顧客離反率を変えることはできない
つまり既存顧客維持のコストは高い
第4章 ライトユーザーが重要
(通説)パレートの法則
売上の80%はブランド購買客の上位20%から持たらされている
データから見ると上位20%の顧客が売上の80%をもたらすことは滅多にない。
購入頻度のヘビーユーザー、ライトユーザーは常に変化しており、購入頻度の低いライトユーザーへのリーチがより重要。
第5, 6章 顧客のプロファイルにそんなに差はない・購買重複
コトラー
ブランドは複数の市場をターゲットにして、競合製品の入り込む余地を可能な限り制限するのが良い
シャープ
異なるブランドはお互いにほぼ同じ割合の顧客基盤を共有し合っているという事実
第7章 ロイヤルティの二面性
購買頻度が低い
100%のロイヤルティを持つ消費者の割合が高い
購買頻度が高い
100%のロイヤルティを持つ消費者の割合が低い
そのブランドについては誰にも負けないと発信している人はそれほど重要ではない
そのブランドを買うほとんどの人はそのブランドのことは考えていない。ただ、こういう人が重要
第8章 差別化よりもそのブランドを想起させる独自性
コトラー:シャープ
差別化:独自性
差別化
重要:消費者はブランドの非常に小さな差異でも認識、高いロイヤルティを抱いているブランドを変えるほどではない
ブランドパーソナリティ
重要:認識している消費者は少ない
独自性
---:差別化の重要度が低いからこそブランディングがより重要、ブランドを認識し、理解し、想起するきっかけとなるもの
独自のブランド資産の強さ指標
ユニークか?
広く認知されているか?
USPよりもUICが重要
USP(ユニーク・セリング・プロポジション)
他社ブランドと比べて自社ブランドが持っている強み
UIC(ユニーク識別特性)
消費者がブランドの広告に触れた時や製品を購入する時にブランドを認識し、理解し、想起するきっかけとなる独自性のある要素
第9章 広告
コトラー:シャープ
理解:気づかせる
説得:記憶を刷新
教える:届ける
第10章 価格
リーチはブランドが成長するための重要な要因
リーチの手段の一つとして価格販促
価格弾力性との兼ね合い
参照価格より低いとき
価格の変更をはっきりと伝達するとき
ブランドのシェアが低いとき
メーカーは価格販促に抵抗感、小売店は好感を持つ可能性がある
リーチ
顧客に対する到達率
価格弾力性
価格が1%変化したときの売上高の変化の割合を示す
参照価格
過去の価格を思い出すことで生まれる「価格」のこと。参照価格を超えると購買率が下がる
第11章 ロイヤルティプログラムは機能しない
ロイヤルティの高い消費者ほどロイヤルティプログラムを認識しやすく参加しやすい
ロイヤルティの低い消費者はロイヤルティプログラムを認識していない
第12章 マーケティングの法則
11の法則のおさらいなので略
第13章 NBDディリクレモデル
NBDディリクレモデル
ブランドの選択率と購買率を予測するモデル
NBDディリクレモデルについては本書では詳細はない。『確率思考の戦略論』に詳しく別途記事にしますがここでは概略だけ。
NBDとは負の二項分布であり、マーケティングでは、「ある一定期間における消費者の購入回数」を数式でモデル化したもの。
NBDディリクレモデルは負の二項分布とディリクレ分布を組み合わせ、マーケティングでは、「ある一定期間における消費者の購入回数」と「複数ブランドの選択比率」を数式でモデル化したもの。
つまりNBDディリクレモデルを用いると複数ブランドが存在する市場の中で、一定期間に自ブランドが何個(何回)買われるかを推定できる。
パラメータとしては
$${r}$$:(分布の)形状パラメータ。「消費者間のばらつきの大きさ」を示す
$${\alpha}$$:(分布の)スケールパラメータ。「消費者の平均購買率」を示す
$${\alpha_i}$$:「複数ブランドの選択比率」であり、ブランド$i$の選択比率
そのブランドのシェアと関連する
購入を増やすためには、購買客の数を増やすことが必要
$${\alpha_i}$$:ブランドの選択比率はシェアにより、結果なので操作はできない
$${r}$$:消費者間のばらつきの大きさは中・長期に変化するものなので短期に操作はできない
$${\alpha}$$:購買の頻度はバイロン・シャープによると、シェアによるので操作できない。購買客の数を増やすことを目的とせよと言っている
ダブルジョパディの法則の下で、NBDディレリクレモデルに則り、「購買客の数」を増やすためにどうするか、がバイロン・シャープの考えるマーケティング