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第2回もじのイチ 読書感想文

 この記事は、2025年1月5日に開催された第2回もじのイチの読書感想文になります。各作者様にこの場を借りて御礼申し上げます。素敵な作品をありがとうございました!
(読了順・敬称略)


翠雪『500字未満の掌編集』

 文庫見開き1ページとは思えない、食べ応えのある掌編たち。甘い恋の味に、苦い後悔の味、ピリリと辛いブラックユーモア……。味わいもそれぞれで、お腹いっぱい楽しみました。
 特に気に入ったのは「心中立てもできないくせに」「最低な君を彩る。」前者はぎゅっと詰まった意味の密度とモチーフ(骨・煙草・ラブホテル)が絶妙にかみ合っていました。後者はタイトルが内容にぴったりで、かつインパクトがあって印象的でした。

津森七『UZU』

 私が七さんの作品を見始めたのは「140字小説」からでしたし、自分もそれまがいのものを書いていたことがあります。物語でもあり詩でもある、その独特の風味が懐かしく思い出されました。
 繊細な感受性がはらむ痛みと哀切。後悔と、倒錯と、はっとするような苦味と甘美。凝縮されたことばの引力がすさまじいです。
 真四角判のたたずまいも、内容にマッチしていて素敵でした。

藍間真珠『うつ病同人女がマンションを購入する話』

 持病のある身として、気になりすぎるタイトルでした。うつ病を抱える筆者が紆余曲折ありつつもマンション購入を達成する流れが、理路整然と綴られていました。やはり同人作家、文章を書きなれてらっしゃるなぁ、と。住宅ローンの落とし穴のくだりは、他人事でないだけに恐ろしさを感じました。無事にマンションを購入され、穏やかな暮らしが得られて本当によかった……!

飛鳥うと『よければ一緒に』

 「そんないつも通りの光景に、夕日が差し込んだ」――。冒頭の描写が鮮やかで素敵。くっきりと印象付けられました。
 甘く穏やかな関係性、例えるならスイーツよりかは微糖のカフェラテのような。互いが互いを思うからこそ、ふたりはぶつかりあい、そして分かり合う。おだやかで、すこやかで、救われる心地がします。
 あとがきの「黒髪×黒髪もいいじゃんか」、すっごくわかります……! こういう反骨心みたいなものが創作の原動力になることもあって、それってとっても良いことだよなぁと思います。負の感情すらエネルギーに転化しうるのだと、書いていくことの意義を再認識しました。

飛鳥うと『旅も道連れ』

 『よければ一緒に』と同一登場人物の、もう少し未来のお話。大学生と社会人になったふたりがスペイン村を楽しむ様子が描かれます。非日常の中でもゆったりと過ぎていく、ふたりの時間が心地よい。見ていて落ち着きます。
 ゆっくり、まじめに紡がれていく、何気ないようでとても真摯なふたりの思い。それぞれの世界を尊重している感じが、とても良かった。

七雪凛音『夜明けの行き先』

 ピュアだけど、ピュアなだけじゃない女の子たちの恋愛模様。各話冒頭に差し込まれるモノローグは、若さゆえの悩みや葛藤をはらんでいて、しかし “それもまた青春なのだ” と、優しく肯定するような作品群でした。恋人たちの大切なモーメントを、丁寧な筆致で切り取って結晶化するその手つき。
 中編「季節は廻り」もまた良かったです。こんな二人なら、たとえ正解を選べずとも、ふたり手をとって何度でもやり直せる、そんな気がするんです。

TRANCHRAN『I wanna taste you』

 R18作品につき詳しい感想は割愛します、が、『Solitude』『Embrace』のエンリコさんとマルティナちゃん、ベッドではこんな感じなんだぁ、ふうん、そっか……とニマニマしながら読ませていただきました。とても解釈一致。本シリーズのファンで、エロに抵抗ない方はぜひふたりの夜を覗いてみてください。

TRANCHRAN『SFSS - SF SHORT STORIES』

 『Lexi』……AIエンジニアと夢破れた女性との、不器用な恋愛とその進展、結実、そしてその先までを描いた物語です。「恋って、自分に何かが欠けているからできるんだわ。わたしには『夢』が欠けてしまった。だから、夢を持っているあなたに惹かれるのね」――。シナリオの美しい構造に、甘く切ない結末が溶け合って、とても良かったです。
 それに加えて、数ページ単位の超短編が集まった『SFSS』も収録。えっこんなにいっぱい良いんですか? 贅沢すぎませんか? お気に入りは「彼女の秘密 僕の秘密」です。トランクランさんの短編は毎度切り口が鮮やかで、ひそかに尊敬しています。

(了)




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