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第9回TAMAコミ 読書感想文

 こちらの記事は2024年9月29日に東京たま未来メッセで開催されたイベント「第9回TAMAコミ」で購入した本の感想まとめになります。
 各作者様に御礼申し上げます。素敵な作品をありがとうございました!


幅観月『ラッキーを頼むよ』

 「引っ越しの前」という、日常と非日常のはざまにあるひとときを描いた本作。心動かす風景をことばによってスケッチしていくような、その丹念な手つきに目を見張りました。
 幅さんの作品からは何か尊い光のようなもの、そして掴み難く淡い幸福のようなものを感じます。そして「慈雨」のネーミング、もうこの名前しかなかったような必然性と、ことばのもつ優しさがとても素敵でした。

高倉慎矢・伊藤景・幅観月
『少女白書――八○年代文芸作品からみる「少女」――』

 「少女小説・マンガ」をテーマにした論稿と、それを下敷きにした小説作品2作を収録した一冊。「八〇年代の少女小説・マンガから少女の要素を抽出して、それらをもとに実作を依頼する」という方式が面白かったです。
 少女小説・マンガという文学について。キーワードは「複雑な心理」や「等身大」。小説『春昏く』と『テレフォンカードに光』で描かれるのは、どちらも等身大の少女であり、彼女らの内面の葛藤や心情のゆらぎでした。ままならない言葉と感情を胸に、少女たちは日々を生きてゆきます。
 「少女小説・マンガ」を通し、「少女」という存在に思いを巡らせる。そうした試みの記録として、この『少女白書』があります。

にしうら染『よりみちパフェ記録ノート』『ハコダテゆるゆるさんぽ旅』

『よりみちパフェ記録ノート』

 読むだけで喫茶店巡りの気分になれる大満足の12pでした。最寄り駅などの情報付きで、ますます行ってみたくなる。
 博物館併設のカフェもまた良いですよね。上野の国立科学博物館のムーセイオン、このあいだ行ったけれど混んでいて入れず……再チャレンジします……!
 ごちそうさまでした!

『ハコダテゆるゆるさんぽ旅』

 自分も函館旅行をしたことがあるのですが、その時見た景色をありありと思い出すような心地でした。もう一度行った気分&また行きたい気分。
 ラッキーピエロ良いですよね!個性的なメニューに奇抜な内装。友人とふたりでお腹いっぱいになりつつほおばったバーガーの味を思い出しました。

勝哉道花『同人物書きがはじめて『文庫本制作』に挑戦してみた話』『頑張りごとは砂の城』

『同人物書きがはじめて『文庫本制作』に挑戦してみた話』

 文庫同人誌制作の過程における、苦悩と感動・歓喜をえがいたエッセイです。
 キャライラスト依頼やWord設定、用紙の選択など、役立つ情報も収録。なにより文中随所から、楽しんで制作をされていたことが伝わってきます。それが良いなぁと感じました。自分も本を作ってみたくなる!

『頑張りごとは砂の城』

 凡人VS変人。ガクチカはまさかの「砂の城」!?
 アイデアをもとに一泡吹かせようとがんばる凡人くん。そこまで夢中になっている時点で、きみもたいがいオモシロイ人だぞ! とか思ったり。
 「わかってもらえない」つらさを共有して、ひととき通じ合う時間のこと。「わからせてやる」とは、反感に見せかけた親愛のあらわれなんじゃないか、みたいなことを感じました。

泉海紫乃『二乗の星回り』『花々の幕間』

『二乗の星回り』

 食事シーンには人柄が出ますよね。それが2人以上なら会話も生まれるし、ドラマが現れる。食と生活・文化は密接な関係にあり、シーンや状況、社会的立場や親密度合いなどによって、店選びやメニュー選びなどもまた変わってくるでしょう。
 そうした「食事とふたり」を切り取る鮮やかなセンス、それが流石だなぁ、と。おいしゅうございました。

『花々の幕間』

 神戸・藤花歌劇団に所属する劇団員〈フェアリィ〉の少女たち。悩みもがきつつも、目指すものへと一心に向かっていく。それは憧れであったり、約束であったり、仲間との絆であったり。
 大正ロマンあふれる流麗な文体もあいまって、儚くも気高く咲く花のような、少女たちのすがたが生き生きと感じられました。

フィナンシェヤクザとシネマ芋先輩『おいもをおいもとめて Vol.2』

 じゃがいも専門・ポテトグルメマガジン!
 豊富なビジュアルと、愛とユーモアにあふれた紹介文。ファストフードも良いけれど、リッチなポテトも食べてみたい! そんな私にぴったりの名ガイドでした。
 個人的に行ってみたいと思ったのは「おうごんのぽてとらど」さん。同ページにある、お二人のおいもをめぐる執念のくだりも印象的でした。

『土の中からホクホクと じゃがいも文芸アンソロジー2』

 こんなに多種多様なじゃがいもがあることを知りませんでした。巻末「登場品種一覧」収録芋は驚異の45品種!
 大きさや味、色、かたさ、食感もさまざまなじゃがいもたち。このアンソロジーに収録の作品たちもまた、ジャンルや形態、ムードや味わいも多種多様な「じゃがいも文芸」でした。
 土の香りに安らぎ、シーズニングに魅惑され、鍋の炎に手に汗握る。読み終えた頃には、もっとじゃがいもが好きになっていること間違いなしです。
 一番のお気に入りは文野華影さんの「悪の休日」。帝国戦隊インカレンジャー(!)の外伝である本作で描かれたのは、ヒーローもヴィランも一時休戦して、コ○ダ珈琲でまったりと過ごす朝の風景でした。ちびっ子ポマトとドクタージョハンセンの温かなやりとりに和みました。

津森七『キラキラ』『王様の耳はロバの耳短歌』

『キラキラ』

 キラキラと輝く掌編たち。しかしその光は果たして福音か、それとも毒か……。さまざまなイメージが喚起される、まるで万華鏡を覗くかのような読書体験でした。
 リアルな感触とファンタジーが同居する心地よさがあって、ひとつひとつのお話が印象深かったです。
 特に好きだったのは「溺れる」。解説ペーパーにもあったように、「大人になるまで気づかなかったこと」ってありますよね。優しい気持ちになれる、すてきな大人の寓話でした。

『王様の耳はロバの耳短歌』

深夜二時君の夜標になりたくていいねをぺかぺか光らせている
生きにくさ六十一点くらいではつらいと泣くのも憚られるし
アクセルを踏み込み景色遠のくも不安はシートベルトをしている

津森七

 お気に入りの3首を挙げてみました。
 「ぺかぺか」「六十一点」というワードセンスの良さ!
 思い切ってアクセルを踏み込んだとしても、どうやっても振り切れないその不安。それをシートベルトという安全のための装置になぞらえるのが皮肉めいていて好きです。

(了)


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