【短編小説】花束の物語【青色のアサガオ編】
あらすじ
朝は美しいが午後には醜くなってしまう女性の短い恋の物語
恋をした。
背が高くて、二重で、鼻が高いハンサムな男性に。
朝、散歩中に声をかけてきた男性は私に気がある様で食事に誘われた。
最初は戸惑いつつも、食事の中で会話が弾み恋をするには十分だった。
とても楽しかった。そのまま結ばれたいと思った。だけど、私は何も望まない。何も期待しない。
午後が近づくにつれ男性のさわやかな表情は、だんだん驚愕、恐怖の表情に変わっていき、慌てるように店を出ていった。
ほら、やっぱり。
次の日、また恋をした。
ぽっちゃりしているけどいつもニコニコしている男性に。
朝、ゲームセンターのUFOキャッチャーで、好きなアニメのキャラクターのぬいぐるみがあった。中々取れず苦戦している時に、男性は颯爽と現れ一発でぬいぐるみを取ってくれた。恋をするには十分だった。
その後、男性の家で一緒に好きなアニメを見ることになった。だけど、私は知っている。男性の家に行くことはないだろうと。
家に向かう途中、私の顔を見た男性は、悲鳴をあげ、その体型からは想像できないスピードで走り去ってしまった。
ほら、やっぱり。帰って一人でアニメを見よう。
その次の日、またまた私は恋をした。
すごく気弱で、泣き虫で、自身がなさそうな男性に。
夜に出歩くことはなかったが、ご飯を作る気力がなかったのでマスクをして深めに帽子をかぶって、近くのコンビニに行った。すると、一人の男がヤンキーに囲まれてカツアゲされていた。
複数人で一人をいじめているという光景が我慢できなくなり、私はヤンキー達に声をかけた。
振り返ったヤンキー達は、私を見るなりニヤニヤしながら近づいてきた。
なので、私はマスクと帽子をとった。すると、半分は気を失いその場に倒れ、もう半分は悲鳴をあげながら、仲間をおいて逃げ去った。
朝の私は、自分で言うのもなんだが、すごく可愛くて、綺麗で美しい。近づいてくる男性を虜にしてしまう。しかし、午後になるにつれて顔はシワシワに萎んでいき、最後には人間とははるか遠い異形の姿へと変わり果ててしまう。
なので、夜に出歩くのは控えていたのだが、、、ヤンキー達に申し訳ないことをしてしまったと反省しながら、マスクと帽子を装着しなおし、どうせいじめられていた男も、ヤンキー達のように気を失い、失禁までしているだろうと思いながら男の方を見た。
「.....…え.....…?」
予想は外れた。男は怖がるどころか、感謝いっぱいの眼差しで私の方を見ていた。私は、なんだか恥ずかしくなり逃げるようにコンビニの中に入っていった。
買い物が終わりコンビニから出ると、先程助けた男が扉の横に立っていた。私のことを待っていたみたいだ。私は、気づいていないふりをしてそのまま立ち去ろうとした。
「あ.....…、あの!」
声を掛けられた。
「さ、先程は助けていただいて、ありがとうございましゅっ!」
感謝された。あと、噛んだ。
「もし、良かったら明日、食事に行きませんか?今日のお礼ということで........」
食事に誘われた。私の顔を見たでしょ、と私は言った。
「はい?それがどうかしましたか?」
彼は、何のことかと首を傾げた。
そして、流されるままに連絡先を交換した後、私たちは別れた。
今まで出会った男性とは違う反応。恋をするには十分だった。
彼との食事の日。
おしゃれな雰囲気のカフェで私は、彼を待っていた。貧乏ゆすりが止まらない。不安だった。昨日とは全く違う朝の顔。彼は、私のことを見つけれないのではないかと。
彼が店に入ってきた。店を見渡し、私と目が合うと、まっすぐ迷うことなく私の方へ近づいてきた。当たり前のように私の向かい側に座る彼。
「すみません。待たせてしまって。もう何か頼まれましたか?」
「いいえ、まだ何も頼んでないです。」
私がそう答えると、彼は、店員さんを呼んだ。
「すみません。僕は、コーヒーとパンケーキを。あと、、えぇっと.....…まだ名前聞いてませんでしたね」
「一花です。私もコーヒーとパンケーキで。」
注文を終えると、店員さんは厨房の方へと去っていった。
少しの沈黙。
「あっ、そういえば僕の名前まだ行ってなかったですね。僕は光輝と言います。宜しくお願いします。」
彼は、思いだしたように自分の自己紹介をすると、丁寧に頭を下げてきたので私もつられて頭を下げた。
しばらくして、コーヒーとパンケーキが届いた。
彼は、待ってましたとコーヒーを一口飲んで、パンケーキを口に放り込んだ。パンケーキを半分食べたところで、何も口にせず俯いている私に気づいた。
「食べないんですか?もしかして、コーヒーとパンケーキ嫌いでしたか?」
彼は、申し訳なさそうな顔でそう言った。
私は彼が来た時から気になっていたことを質問した。
「どうして私のことが分かったんですか?」
「え?僕のことを助けてくれた人を間違えるわけないでしょう?」
彼は、何をいっているんだという表情でそう聞き返した。
「そうじゃなくて.....…、昨日と全然違う顔でしょ?なのに、どうして?」
「あぁ、そういうことですか?確かに見た目はずいぶん違いますけど、僕を助けてくれた時に感じた、美しさや優しさは何も変わっていません。」
「美しいって.....…、昨日の私は醜かったでしょう」
「僕は見た目の話をしているわけではありません。心の話をしているんです。昨日も今日も美しくて優しい、そんな一花さんを見間違えるわけありませんよ。」
「あ、ありがとう.....…。ずいぶん違うは余計だけど」
私は、冗談ですよと笑う彼から赤くなった頬を隠すようにコーヒーを一口飲んだ。
私は恋をした。
私の見た目ではなく、心を見てくれる、そんな彼に。
以上。
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青色のアサガオの花言葉:「短い愛」、「儚い恋」