【小説】花束の物語【薔薇編#5】
※この話には暴力的描写が少し含まれています。苦手な方はお気を付けください。
チャイムが鳴り、私たちは屋上から教室に戻った。
教室に戻る途中、林田、田口、神田の3人は職員室に用事があると言って別れたので京谷と2人で教室に戻った。
後ろの扉から教室に入った時、私は大きな間違いを犯したことに気づいた。
「あれぇ?2人そろってどこ行ってたのぉ?」
しまった。2人一緒に教室に戻るなんて軽率だった。
そう思ったのはすでに遅く、女王軍団と男子数人の暴力団にあっという間に囲まれてしまった。
「もうすぐ授業が始まる。そこ通して」
京谷は冷静な態度でそう言った。
「どうせ次の授業は老いぼれジジィだから自習も当然だろ?それより、2人仲良く教室に入ってくるって何?お前ら付き合ってんの?」
そう言ってきたのは、男子のボス的存在の生徒で、その後ろには数人の手下がニヤニヤした顔でこっちを見ている。
ボスは、何度か暴力沙汰で停学を受けたことがある、いわゆる不良だ。逆らえば何をされるか分からない。
女王とボスがいる教室って何なんだよ。マジで。意味わからんだろ、このクラス。
「は?別に付き合ってないけど。ただ、一緒に教室に入ってきただけだろ?それだけで付き合ってるってお前らの頭お花畑かよ」
えーーーー!?めっちゃ挑発してる!?やめて!京谷!そんなに煽んないで!
心の中で叫びながら京谷の制服の袖を何度も引っ張った。
「あ?馬鹿にしてんのか?お前、立場分かってんの?」
ほらーーー!!めっちゃキレてるじゃん!京谷、謝ろう!なんなら土下座しよう!
「はぁー。話にならないな。華、こんな奴ら気にせず席に戻ろう。」
京谷はそう言うと、私の手を掴み男子の間を通り抜けようとした。
「おい!!勝手にどこ行こうとしてんだよ!!」
バゴォン!!!!!!!!!
ボスは通り抜けようとした京谷を思いっきり突き飛ばし、
京谷は扉にぶつかり、床に座り込んでしまった。
「うっ…」
「京谷!!!」
私は慌てて京谷の方に駆け寄った。
「京谷!大丈夫?ケガして…うぅっ…」
急に私の髪が何者かに強く引っ張られ、その痛みに思わずうめき声を上げた。
「ねぇ、もう彼女気取りなわけ?」
犯人は京谷の元カノだった。
「うっ…ぐぅ…っ…別に、彼女気取ってなんて…」
「はぁ?いつの間にか名前で呼び合う関係になっちゃって、マジでムカつく!!」
そう言うと、さらに私の髪を強く引っ張った。
「あぅぅ…きょう…やの事を…名前で呼ぶのにあん…たの許可が必要、なの?」
「ねぇ、さっきから何?その態度。調子乗るのもいい加減にしてよ」
パァーーーーン!!!
え、なに、今、私、叩かれた?痛い痛い痛い痛い痛い........
「華!!!大丈夫か!?おい!!!お前、やりすぎだ…うごぉっ…!!」
「京谷は俺らと遊ぼうぜぇ~」
後ろを振り向けないが、京谷もボスたちに殴られているみたいだ。
周りのクラスメイトは止めるどころか面白がってスマホで撮影したりする始末。
「二度と反抗的な態度取れなくしてあげる」
パァーーーーン!!!
また叩かれた。まるで見世物にでもされてる気分だ。
パァーーーーン!!!
何度も何度も叩かれる。屈辱だ。
パァーーーーン!!!
なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないの
パァーーーーン!!!
皆見てないで助けてよ.....…
「うぅぅ…もぅ…ゃめてぇ…」
「あはは!皆ぁ~見てよぉ!イバラ泣いてるよぉ!あんなに強がってたのに恥ずかしい!」
周りも泣いてる私を見て笑ってる。
なんなのよ、この世界。いくら味方ができたってこんなの耐えられるわけないじゃん。もう死んだ方がマシじゃない.....…
「くっ…は…華ぁ…!!」
京谷は痛みに耐えながらも、私を助けようと必死に抵抗している。
「イバラぁ、やめてほしかったら土下座しなよ」
元カノはそう言うと、私の髪を乱暴に放した。
「華!!お前が謝る必要なんてない!!待ってろ!今俺が助け…うがぁ!」
「おい、かっこつけんなよ!!おらぁ!!」
これ以上、京谷を傷つけてほしくない…私が土下座して、京谷を助けることができるなら…
私はそう思いながら、頭をゆっくり下げていった。
「やめろ!!華!!謝るな!!」
ごめんね…京谷…ありがとう.....…
私の額が床に着こうとしたその時…
ガラガラ!!
教室の前の扉が勢いよく開けられ3人の生徒が私たちの方に駆け寄ってきた。
「棘咲さん!!菊池君!!大丈夫!?」
「おい、お前らこれはどういうつもりだ!?」
「いくら何でもやり過ぎだぞ!!」
そう言いながら、林田、田口、神田の3人は私と京谷を守るように間に入り込んだ。
「はぁ?何?あんたたち。邪魔するなら同じ目に遭わせるわよ?」
「やれるもんならやってみなさいよ。こんなことして許されると思ってるの?」
女王の忠告に対して、神田は堂々と反抗した。
林田、田口もボスたちに反抗している。
「皆ー、席につけー。授業始めるぞー」
クラス内戦争が勃発しそうになった時、今の雰囲気には似つかわしくない声で入ってきたのは5限目の授業を担当する老いぼれ教師だった。
「ちっ、いいところだったのによぉ。お前ら覚えとけよ」
「イバラぁ、あんたが土下座するまで許さないから」
ボスと元カノはそう言うと席に戻り、周りの生徒もその後に続いてそれぞれの席に着席した。
「京谷、大丈夫か?」
「あぁ、何とか」
倒れていた京谷に、林田が手を差し伸べ、京谷はゆっくり立ち上がった。
「遅くなってすまない、用事が長引いてしまって。」
「いや、問題ない。お前たちにしかできない事だから助かる。それでどうだった?」
「あぁ、もう大丈夫だ。心配ない」
「そうか、それなら安心だ」
林田の話を聞いて京谷は安堵した表情を浮かべた。
一体2人は何の話をしているんだろうと不思議に思いながら見つめていると、神田が座り込んだ私をギュッと強く抱きしめてきた。
「っ!?か、神田さん?」
「棘咲さん…!ごめんねぇ…助けに来るのが遅くなってぇ…!」
「…大丈夫…助けてくれて…ありがとう」
私も助けてくれた”友達”を強く抱きしめた。
皆が助けに来てくれたことで、絶望でいっぱいだった心は、幸せな気持ちで満たされた。
体は安心したからか、だんだん力が抜けていき、神田の後ろに回していた腕が、まるで花びらが落ちるかのようにゆっくり床に落ちていった。
「っ!?棘咲さん!!大丈夫!?しっかりして!!」
教室中に響く神田の叫び声の中、私の意識は遠のいて行った。
続く