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燐寸(短編小説)

天才は薄命と言う。ことに文豪はどうだ。太宰と芥川は自殺だが、独歩やら一葉やら、作之助、安吾、中也、漱石もまあ薄命な気がするし他に、云々

僕はこの記事を読んで、今のうちに遺書でも書いておこうかしらと思った。なるほど僕のことじゃないかとも呟いた。

しかし、近くの海が綺麗に整備されて海開きすると聞いて、書く時間も勿体ないと思って、ついに夏が終わってしまった。

 これからどうしようかと、マッチでタバコをつけて、タバコを飲んでみると、突然僕はマッチのことがそわそわ気になり始めた。
なるほど小さい。しゅぽしゅぽ火をつけては消してを繰り返して、短命を見送っていると、とうとう箱が空っぽになった。僕は水溜まりにおちているマッチを拾うことなく踏みつけた。

そして高いビルに見下ろされた木の下にいるマッチ売りの阿呆そうな少女から一本、燐寸を買い取った。
飛びつくように家に帰って、すぐさま机の上にある遺書の下書き用の原稿白紙をじわじわ燃やした。
匂いすらしないのには驚いた。


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