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〜ブルー・ストーン〜第一話   「目覚めと目醒め」

「ねぇ、コノハ。見えないものが見えるようになったんだ。君なら信じてくれるよね」スイは、その青い目で僕を見つめながら言った。

「もちろん信じるさ。信じるとも。」

「しかしスイ、一体何が見えたんだ?」

しばらく黙り込んでいたスイ。僕は首を傾げて促した。

「光の道。私にはそれが見えたの。」

「・・・光の道?」

「ええ、光の道よ。私達が向かうべき道であり、終わりへと続く道。それが見えるようになったの。」


あの時は、スイが言いたかった事は分からなかった。 「ーーー光の道ーーー」そんなものが僕にも見えたのならば、もっと多くの命を救えたはずなのに。でも、それが見えてしまったスイはどれほど辛かっただろう。きっと、自分の無力さに絶望しただろう。


===プロローグ===

僕が目を覚ましたのは、まだ雪が降る季節の早朝だった。

しばらくは体を横にしたままでいたが、暖かい飲み物が欲しくなって解錠レバーを右から左へと回し、カプセルから出た。今時、機械仕掛けの解錠なんてもの凄く時代遅れだ。今時のカプセルは目が覚めると、センサーが起動して自動的に解錠するタイプのものが主流だ。というか殆どその手のものだ。

カプセルから出て、冷たいアルミニウムタイルの廊下を素足で歩き、キッチンへと向かう。僕は、冬の外気によって冷やされた金属に触れるのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。じっと手を当てていれば熱伝導によって体温が奪われていき、やがて金属は生暖かくなっていく。そして、体温と同じ温度になった時、変なんだけど金属が僕の体と一体化したように思えてくる。これが少し不思議で面白い。氷やチョコレートを口の中で溶かしている時もそれに似たような感覚を覚える。

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長い廊下を歩きながら、僕は外の景色を眺めていた。外は雪が降り積り、家屋が白紙を突き破って頭を出したような有様。当然、吐く息は白いし、気温は氷点下だった。そろそろ足先の感覚が薄れていく頃合いだったが、ひとまずキッチンに到着した。無機質なキッチンを見回した後、コーヒーパックを手に取り、コーヒーメーカーへと装着する。ミルクと砂糖を多めに調節し、マグカップを所定の位置にセットする。そして、ボタンを押した。

僕はどちらかというとブラックコーヒーが好きなのだが、寒い朝には暖かくて甘い飲み物が相性抜群なのだ。

コーヒーカップを片手に持ち、少しぼーっとした後、僕の仕事部屋(キッチンの二つ隣の部屋)へ向かった。

ワークデスクには、まだ途中の仕事が残っていた。僕の仕事というのは、いわゆる分解屋で、捨てられたマシンやロボットを分解し再利用できる部品を抜き取る。抜き取った部品をそのまま売る事もできるが、僕の場合はその部品で新しくロボットを作り上げてしまう。

集中力と忍耐力が必要な仕事なのだが、達成感は感じられる。今は、捨てられていたマシンの分解途中だ。マシンフレームは錆びているし、ベアリングは固まってしまい回転がぎこちない。センサや表示灯も完全に機能していない。このような殆ど死んでしまったマシンでも、まだ生きている部品はあるのだ。僕の仕事はそのような・・・えっとつまり、表現に誤りがなければ、『メカの生命を繋いでいく仕事』なのだ。

今ではメカに命が宿るという考え方もかなり浸透してきているが、まだ半分づつくらいだろう。僕はもちろんメカに命が宿ると信じている。

一昔前までは、このような機械生命体論者は凄まじい差別を受けていたが、マイクロストーン社の自己学習型ロボが普及してきてからは、少しづつ世の中の考え方が変化してきているが・・・

僕はワークデスクの前に立ち分解作業に取りかかった。まず、精密ドライバを手に取り剥き出しになった基盤を取り外す。おそらく、マシンの動作を制御する回路だろう。取り外した基盤はケーブルを切断し、ひとまずコンテナボックスに仕舞い込んだ。マシンオイルでベタベタしていたので、多分これは無理だろう。

次に取りかかったのはマシンの主要な部分なのだが・・・何かスイッチのようなものが見つかった。起動することは無いと思いつつも興味本位でスイッチをオンにしてみる。すると、パチパチという雑音があったかと思うと、マシンが一瞬だけ動いて、すぐに止まってしまった。                       僕はこの光景に何故か懐かしさを覚えた。まるでボタン電池が切れかけた、玩具のような、そんな哀愁があった。「まぁ、基盤も外してるし動かないよね。」分かってはいるけど、やはり機械生命が既に停止していることを痛感させられるのは少しだけ悲しいものだ。

気を取り直して分解作業に取り掛かろうとした瞬間、オルゴールのような音が聞こえてきた。耳を澄まして聞いてみると、マシンの警報ブザーから音が鳴っている。しかも、人間の声も聞こえる。しかし、何を言っているのかは聞き取れない。声が小さいとか、言語が違うとかそういった意味ではなく、単純に何を言っているか分からないのだ。不自然で不気味な感じだった。ずっと鳴っている。うるさい。スイッチを切るが音は鳴り止まない。次第に人間のような声もボリュームが上がっていく。

僕は何が起きているか、直ぐには判断がつかなかった。電源が予備のバッテリーに切り替わったのか?その可能性もあり得る。そもそも、マシンに人間の声を入力する事が不自然だ。自己学習型のロボットに人間の声を入力するなら自然な事だが、このマシンはただの工業用マシンなのだから。僕は次第に上がるボリュームに慌てていたので、ワークデスクに置いてあったマグカップを落としてしまった。ミルクコーヒーが零れ、マグカップは高い音をたてて割れる。ミルクコーヒからはまだ湯気がわずかに出ていた。

僕はため息をついた。せっかくの気持ちいい朝が、最悪だ。カプセルで眠っていた時間に戻りたい。

・・・「待てよ。まさか、これは逆再生?」

僕は急いでレコーダを取りに行った。

僕の前腕には鳥肌が立っていた。これは、冬の寒さのためでは無い。かなり興奮していた。バッテリーが切れてしまう前に録音しなくては。そう思い、廊下を走った。そして僕の寝室へと向かう。曲がり角を曲がる時、足の小指を壁の角ばった所にぶつけてしまい、叫んだ。

これは、どうすることもできない不可抗力だった。涙目になりながらも、なんとかレコーダを手に取り、仕事部屋へと急いだ。

まだ、あの音は鳴っている。

レコーダのスイッチをオンにすると同時に扉を開け、録音を開始した。

録音した音は20秒程度の短いもので、それが何度も何度も繰り返し流れている。音声を聞き取るためには、マシンから鳴るけたたましい音を止める必要があったので、ブザーにマシンオイルを流し込んでやった。もうこの際、部品なんてどうでもよかった。しばらくすると、マシンの音はノイズに変わり、やがて消えていった。僕は一息置いて、レコーダを逆再生モードでスイッチを入れた。変な音楽と、やはり人間の声が聞こえた。注意しながら人の声だけを、聞いてみる。   

『〜〜18〜〜エス〜オエス〜〜ッ・・・〜ラザ〜ファクシマイル〜〜18〜』   

『・エス・オエス・・ッ・ラザ・ファクシマイル・・18・・エス・』 

「SOS・・・ラザファクシマイル18?」

「助けを求めているのか?それともこれは誰かのイタズラなのか?しかし、ラザ・ファクシマイルは実際に存在する地名だ。あそこは確か、工業用ロボの製造工場地帯だったはずだ、、、さて、これは調べてみる価値があるのか。」

しばらく迷ったが、朝から驚かされて小指を痛めたんだ。これが本当でもイタズラでも真相を突き止めてやりたいと思った。

とにかく僕はもの凄く興奮していたんだ。


登場人物

コノハ・イサム:分解屋で機械生命体論者。

スイ:NoDate...

#宇宙SF #小説#アニメ

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