〜ブルー・ストーン〜第四話 「無知と未知」
僕は一体どれくらい眠っていたのだろうか。
目を覚ますと、あの部屋では無かった。
辺りを見回すと僕は薄暗い部屋にいて、ベッドに横たわっていた。緑と赤の小さな光がそこらじゅうでチラチラ瞬いている。光ったり...消えたり...を絶え間なく繰り返している。
綺麗だ。心からそう思えた気がした。
しばらくその光をぼんやり眺めていた。不思議と体の痛みはなくなっている。
僕は、ここに来た目的を思い出した。
はっとして、起き上がろうとする。何か細い糸のようなものが腕に絡まるような感触があった。腕に目をやると、糸のようなそれは赤紫の半透明な液体で満たされた細いチューブのようなもので、それが僕の腕に刺さっていた。僕は落ち着いてそれを観察する。チューブを僕の腕から追っていくと、それはガラス製の球状の容器に繋がっていて、容器内はプクプクと泡を立てている。気持ち悪い。何か点滴のような物なのだろうが、体に得体の知れない物が入ってくるのはやはり気持ちが悪い。
「すぅ〜はぁ〜...」僕は大きく深呼吸する。
そしてチューブを強く握り、心の中で三つ数える。
3、2、1...ブチッ
電気が走るような痛みを感じた。
しばらく、痛みで動け無かった。動けなくなるほど、痛かった。チューブを外そうという野蛮な考え方が良く無かったと反省する。痛みが少し和らいできた所で、女の声が聞こえた。
「一ヶ月...」
僕は声の方に目を向ける。
声の方には、黒い髪が肩まで伸びた肌白い青目の少女がいた。
「貴方が眠っていた期間。一ヶ月。」
「私はずっと待っていた。貴方が目を覚ますのを。」
「ちょ...ちょっと待って。僕は一ヶ月もここで眠っていたのかい?」
「そう。私が、ずっとそばで看病していたの。」
一ヶ月。僕はそんなにも眠っていたのか。人はそれほどまでに長い間、眠ることが可能なのだろうか。一ヶ月眠っていたという事に驚いていたが、もっと大切な事を思い出して青目の少女に質問する。
「まさか...あのSOSの声は君なのかい?」
「そう。あれは私。」
「ナビから聞こえた声も?」
「そうよ。」
「待ってくれ、君は明らかに無事じゃないか!一体何から君を助けるんだ?僕はここに来るまでに散々な目に遭ったんだぞ!!僕がどれほどの苦痛と絶望感を味わったか!君には分からないだろうけどね、僕は...僕は!...クソ!!!」
何故か分からないが、僕は目の前の小さな少女に感情を剥き出していた。流石に大人気ないと思いすぐに誤った。
「すまない。声を荒らげて。でも、君は無事で僕は怪我をしている。これはどういう事だ?あのSOSはイタズラだったのかい?」
「いいの。私こそごめんなさい。でも、助けて欲しいのは本当のことなの。イタズラなんかじゃ無い。だから、お願いだから落ち着いて。」
僕は目を瞑って大きく息を吸って、長く吐き出した。
「もう大丈夫、十分に落ち着いたさ。」
青目の少女は黙って頷いた。
そしてしばし沈黙がある。
互いに目を合わせて黙り混んでいる。目の端の方では、やはり緑と赤の光がチラチラ瞬いている。
「まず、私の話をするね」先に口を開いたのは少女の方だった。
「えっと…私が産まれたのは、今から20年以上も前の事なの。私は、産まれてからずっとここに閉じ込められていて、誰にも出会った事は無かったし…ずっと一人だった。だから、私は何のために産まれてきたの?どうして一人なの?ってずっと不思議だった。自分自身が何者なのかも分からなかった。」
「でも、ある時気付いたの。…私は、この星…地球を守るために産まれてきた。なぜだか、外へ出たことは無いけど目を瞑れば空が見えるし、耳を澄ませばいつも知らない人の声が聞こえる。そして、ちょうど今から1年位前に変な音が聞こえてきた。」
「その音は全然鳴りやんでくれなくて、頭が壊れてしまったと思ったんだけど…でも本当はそうじゃなくて、あの音は…地球に隕石が降り注ぐ音だと直感で分かったの。風を切る音と大きな爆発の音。それに色んな人の悲鳴とか叫び声も聞こえた。嫌になって、逃げたくて、目を瞑るけど…見えるのは地球が壊れていく風景だけ。」
この少女が一体何の話をしているのか理解できていない。そもそも20年前に産まれたのだから少女では無いのでは?いや、問題はそこじゃない、隕石ってなんだ?そもそも僕は誰と何の話をしているんだ?
頭の中がぐちゃぐちゃだった。僕は彼女に対して質問したい事は山ほどあったが、頭の整理に追われてそんな暇もない。そして、彼女は矢継ぎ早に話を続けた。
「私が見聞きしたその光景は、これから実際に起きる事なの。もう、確定した運命なのよ。これから起こる未曾有の確定現象を止めることはきっと不可能。でも、変える事の出来る未確定現象も必ずある。だから、あなたに助けを求めたのよ。」
まだ、分からない。彼女は一体何者なんだろうか?
僕は、考える事に疲れてしまっていた。
この飲み込みようのない大きな事実。その影に隠れて、不穏な気配と言い表し難い恐怖がこちらを覗いている気がして、背筋が凍った。
登場人物
コノハ・イサム:分解屋で機械生命体論者
スイ:NoDate...