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10歳が伝えてくれた「まだ」ってこと。

私には小学4年生の従姉妹がいる。会うと嬉しそうに駆け寄って来てくれる可愛い無邪気な女の子だ。ある日、私は彼女に「将来の夢はある?」と尋ねてみた。すると彼女は「服のデザイナーになりたい」と迷いなく答えた。それを聞いてハッとした自分がいた。彼女と同じ歳の頃、私も全く同じ夢を抱いていたのを思い出したからだ。

子供の夢はその時の興味でころころ変わる。私もケーキ屋さんとか保育園の先生とかピアニストとか色々な夢を描いたものだ。しかしファッションデザイナーになりたいという夢はなかなか変わることはなかった。他の夢とは違う強い興味と熱意が自分の中にはあった。早くファッションについての勉強がしたいとずっと思っていた。どうやったらファッションデザイナーになれるのか、本を読んでみたりネットで検索してみたり、自分なりに調べてみたがあまり深いことは分からなかった。

高校生になって大学進学について考える時間が多くなった頃、やはりまだ私はファッションデザイナーになりたいと思っていた。ファッションの勉強をするためにはどこの大学に行けば良いのか色々と調べた。「服飾科」とか「被服科」とか、とりあえず「服」という字が入った学科のある大学をリストアップした。しかし資料請求をしたり、大学のホームページを見てもファッションデザイナーになるための勉強ができるのかどうかは分からなかった。進路指導の面談があるたびに「ファッションデザイナーになりたい」と言い続けたが、どの先生も「ファッションのことはよく分からない」と言ってなるべく偏差値の高い大学を勧めた。毎日膨大な量の宿題、毎時間の小テストの勉強、それに加えて受験勉強。私の時間は勉強に侵され、私の世界は学校と家に狭められた。そんな私には自分の夢をゆっくり見つめ直す時間もなく、夢を実現するための知識を得ることもできなかった。私はリストアップした中で一番偏差値の高い大学に行くことになった。

とはいえ「服について学ぶ」ことは諦めなかったのだから、大学ではそれなりに学ぶこともあったし、ファッション好きの友達もできた。古着屋でバイトしたり、スタイリストのアシスタントをしたりもした。ファッションサークルにも入ってみたし(すぐにやめてしまったのだが…)、大学の文化祭のファッションショーに参加したりもした。大学2年生の春休みには、ロンドンでファッション留学した。

しかし大学ではデザインや縫製の授業が少なかったこと、また短期留学で心残りがあったことから、大学卒業後はロンドンの大学でファッションの勉強をすることにした。ただ本格的にファッションのコースに入る前に、アート&デザインを総合的に学ぶコースに入る必要があった。またそのコースを経ても、選ばれし者しかファッションコースには進めない。そして留学生は莫大な学費がかかる。色々と思い悩んだが、アート&デザインのコースを修了し、ファッションコースに進むことは諦めた。その留学中に応募したイギリスの就労ビザに当選し、今はロンドンでアルバイトしながら生活している。

小学生の時に「ファッションデザイナーになりたい!」と思い立ってから、ファッションを好きな気持ちは変わらなかったし、どんなことに関しても大好きなファッションに何らかの形で関わっておくべきだと考えて行動してきた。でも今の私はファッションデザイナーでもなければ、アパレル販売員でもなく、ファッションに携わるような仕事は一切していない。そんなことを考えていると焦りと悔しさでいっぱいになった。

いつ、何を、間違ったのだろう。高校進学の時点で服飾科のある学校に行くべきだったのか。大学よりもファッションの専門学校に行くべきだったのか。留学せずアパレル企業に就職すべきだったのか。今までの人生、色々な選択をしてきたが全てを真剣に考えて悩んで決断してきたつもりだ。でも今思い返せばもっと正しい選択があったのではないかと思ってしまう。

私にはまだ10歳の従姉妹がうらやましかった。彼女にはファッションデザイナーになれる可能性がたくさんあると思うと、自分の夢を託したい気持ちになった。そんな気持ちから、私は彼女に「頑張って服のデザイナーになってね!私もなりたかったけどなれなかったから応援する!」と伝えた。すると彼女は、「まだなれるじゃん!」と返した。私はまた彼女の返答にハッとさせられた。

色々なところで「何を目指すにも遅いことはない」とか「何かを始めるのに年齢は関係ない」という言葉を耳にする。それはそうだなと表面的に思ってはいたけれど、自分自身には全く言い聞かせられていなかった。誰かが自分にそう言ってくれても素直に聞き入れられなかった。しかし、たった10歳の女の子に言われた時、今まで信じ込めていなかったその言葉が真実のように感じられた。彼女より何歳も年上で「もう」夢を叶えていてもいい年齢の私に、彼女は「まだ」と言ってくれた。

それから彼女は自分で描いた服のデザインを私に見せてくれるようになった。その絵を見るたびに、私も「まだやれる!」と思える。いつか「もうあの夢を叶えれたな」と思える日が来るよう、まだまだ諦めずに夢に向き合い続けたい。そう思えた春が近づく2021年2月20日の少し暖かい夜だった。


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